こんな修羅場は滅多に体験できない

私が、ある企業の部長を務めていたとき、2人の部下が「あの国際プロジェクトが吹っ飛びます」と顔色を変えて部長室に駆け込んできました。2人とも優秀な部下です。事態の深刻さは推して知るべし。私に事態を打開する妙案などあろうはずもありません。しかし私は、その場で一呼吸置いた後、「おめでとう」と言いました。

「こんな修羅場を体験する機会は滅多にない。君たちが、この修羅場で学べることを徹底的に学んでくれたら、それでよい。まだ勝負は終わっていない。最後の最後まで、打てる手を打ち尽くそう」

激烈な逆風のトラブル対策です。わくわくする場面ではない。しかし、こういうときこそ成長できる。ビジネスには、そう腹を括る覚悟が必要なときもあるのです。

第3は、仕事の「彼方」を見つめること。仕事の目的は、会社の利益だけではない。社会への貢献がある。その貢献の意味を深く考えることです。

大切な寓話があります。真夏に教会の建設現場で働く2人の石切り職人。1人は「稼ぎのために、炎天下、いまいましい石と悪戦苦闘している」と暗い顔で語る。もう1人は「人々の心の安らぎの場となる素晴らしい教会を造っている」と明るい顔で語る。

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仕事に面白み、やり甲斐を感じるための「3つの心得」

前者は目の前の仕事を、後者はその彼方を見つめています。そして、我々が働き甲斐を感じるのは、仕事の彼方に思いを馳せたとき。ときおり、仕事の手を休め、その仕事の彼方を見つめ、職場の仲間と語り合うべきでしょう。この仕事はこういう素晴らしい社会貢献の事業の一部なのだ、と。そのとき、働き甲斐とは、与えられるものではなく、仲間と創り出すものであることに気がつくでしょう。

人生において、無駄なことは何ひとつありません。すべてが学びの機会であり、それらに真摯に向き合っていくと、自然に、腕が磨かれ、人間が磨かれていきます。

自分の仕事を、どこまでも前向きに見つめること。その姿勢は、よき仕事、よき人間、よき機会を引き寄せ、さらには、よき運気さえも呼び込んでいくのです。

多摩大学大学院教授 田坂広志
1951年生まれ。81年、東京大学大学院修了。工学博士(原子力工学)。同年民間企業入社。90年、日本総合研究所設立に参画。取締役。2000年、現職及びシンクタンク・ソフィアバンク設立。11年3~9月、内閣官房参与。
(構成=高橋盛男)
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