2023年シーズンから米大リーグは試合時間の短縮を目的に、新ルール「ピッチクロック」を導入した。この結果、観客動員が増え、年齢層も若返った。ライターの広尾晃さんは「今季から台湾、韓国も導入予定だが、日本のプロ野球は見送った。野球界の未来を考えると非常に残念だ」という――。
アストロズ戦に先発したエンゼルスの大谷翔平
写真=時事通信フォト
アストロズ戦に先発したエンゼルスの大谷翔平。奥の数字はピッチクロック(投球間の時間制限)=2023年5月9日、アメリカ・アナハイム

ピッチクロックを導入したMLBが得たすごい成果

米大リーグ(MLB)は北米四大スポーツの1つだが、競合するアメリカンフットボール(NFL)、バスケットボール(NBA)に比べてファン層が高齢で、若者層に人気がなかった。その一因として「試合時間の長さ」が指摘されていた。

NFLの試合時間は15分×4クオーターの計60分、NBAの試合時間は12分×4クオーターの計48分、インターバルやハーフタイムショーなどがあるのでスタジアムの滞在時間はともに2時間以上にはなるが、MLBは平均試合時間が3時間10分前後、しかも時間の制約がない野球は圧倒的に長く、スピーディな展開を好む若者には不評だった。

そこで2023年シーズンから、MLBは「ピッチクロック」を導入した。

「ピッチクロック」とは、

・投手は、ボールを受け取ってから、走者がいない場合は15秒、走者がいる場合は20秒以内に投球動作に入らなければならない。これに違反した場合、自動的に1ボールが追加される。
・打者は、制限時間の8秒前までに打席に入り、打つ準備を完了していなければならない。これに違反した場合、自動的に1ストライクが追加される。
・走者がいるときに、投手が牽制や投手板を外した場合、制限時間はリセットされる
(※MLBでは2024年から、走者がいる場合は20秒以内→18秒以内とさらに短縮することを決めている)

というルールだ。

MLB30球団の本拠地のバックネットには経過時間を示すタイマーが設置され、テレビの放送でもタイマーの数字が表示された。これがMLBの試合運営に劇的な変化をもたらした。

時短で観客数も年齢層も大きく変化

MLBのロブ・マンフレッド・コミッショナーは、時短のためにこれまでも「申告敬遠制度」や「ワンポイントリリーフの廃止」などを導入したが、まったく効果がなかったために「ピッチクロック」の導入に踏み切った。

マイナーリーグや提携する独立リーグなどでの実験的導入を経て、2023年から導入した。

その結果として、MLB30球団の平均試合時間は2022年の3時間3分44秒から2時間39分49秒と、約24分も短縮された。

筆者は、シーズン中はMLB中継のテレビをつけながら仕事をしているが、昨年は大谷翔平の投げる試合など、あっという間に終わった印象だ。

スピーディな試合はMLBのファンにも好評で、観客動員は6455万6658人から7074万7365人と9.6%も増加した。

全30球団のうち26球団が観客動員数を伸ばし、メジャー全体で週末の動員が150万人を突破したことは11度に上ったという。

とりわけ重要なのは、年齢別で18歳から35歳のファンの入場券購入率がこの4年間で10%増。チケットを購入したファンの平均年齢は、2019年は51歳だったが、昨季は45歳になったという。(米のスポーツメディア「ジ・アスレチック」2024年2月9日より)