「雨は四〇日と四〇夜降りつづいた」。

いうまでもなく、ノアの洪水の素っ気ない記述である。気象は神が支配し、人間の力が及ばない世界だからこそ、古来、旱魃が続けば、神に生贄を捧げ、祈祷師が雨乞いの祈りを続けるといった儀式が、あらゆる地域で行われてきた。科学技術の発展は、祈祷師ではなく普通の人間が気象や気候を支配する、SF的な未来のストーリーをもたらした。

19世紀末になると、アメリカではレインメーカーと称する人たちが注文に応じて気候を提供するというビジネスを始め、火薬や爆発物を利用して、雨を降らすための様々な実験をしている。その多くはペテン師に近いのだが、荒唐無稽な試みを重ねては、旱魃や雹、ハリケーンに悩む人々から報酬を受け取っている。もちろん、そのすべてがペテン師ではなく、気象の専門家として初めて政府に雇われたジェイムズ・エスピーのように、「あらゆる大気の乱れは、蒸気力によって生じる」という理論を立て、科学史において高い評価を受けている人物もいた。

アメリカで、気候や気象に対する科学技術の応用・研究が急速に国の関心を集めたのは、第二次世界大戦時。コンピューターの発達によるデジタル化によって、巨大なデータの解析や分析が可能となり、正確な気象予報が可能になったためである。第二次大戦後は、ロケット技術や衛星による画像データ解析など様々な技術が画期的な発展を遂げ、ベトナム戦争時には、ホーチミン・ルートを壊すために、化学物質を大量に空中散布して泥沼化を図るといった軍事利用が始まった。

また、ソ連のチェルノブイリ原子力発電所の事故の後には、チェルノブイリ上空で高い放射性のある雨雲が発達し、モスクワやレニングラードに向かって風が吹いていたのだが、その中間に位置するベラルーシを豪雨が襲ったため、モスクワに高い放射性物質が届くことはなかった。ベラルーシを襲った豪雨は、ソ連による“雲の種まき”だったとされている。

「もしも地球を全面的に制御する力が行使できるような絶対的地位が宇宙にあるならば、我々の国家目標、自由世界のあらゆる人の目標は、その地位を勝ち取り、維持することである」。リンドン・ジョンソン大統領の時代の科学者の言葉である。

気候・気象の制御は、神に代わって人間が支配することへの恐怖から、国際的に様々な規制がかかっているはずなのだが、その多くは抜け穴だらけで、軍事的な研究・開発競争はやむことがない。

しかし、温暖化によって人間の住めなくなる地球へと進行している現在、気象・気候に関する研究の進化によって、少しでも有効な対応策が望まれていることも間違いない。

本書は、冗長な記述も散見されるが、緊急のテーマについて、新たな知見を得られるものである。