お金をどれだけ手にしたところで、人は幸せになれない。億万長者になれたのに満たされない人は、何が足りないのか。雑誌「プレジデント」(2023年11月3日号)の特集「人生の価値」より、作家の橘玲氏のコラムをお届けします――。
お金が増える喜びにいずれ慣れる
お金はないより、あったほうがいいのは確かです。お金によって、心配事を減らすことができるからです。ただ、お金の量に比例して幸せになるかといえば、それはありません。「限界効用逓減の法則」によって、お金が増えても、満足度はそれほど上がらないからです。
限界効用とは、「モノやサービスが1単位増えたときに得られる効用」を意味します。これが逓減することで、お金の保有量が増加するにつれて、その効用は徐々に減っていきます。
貯蓄が10万円だった人がいきなり100万円を手にすれば、大きな幸せを感じるはずです。ところが、1億円を持っている人の資産が1億100万円になっても気づきもしないでしょう。どんなよいことも、最初は大きなインパクトがあって幸福度が上がりますが、何度も繰り返していくうちに慣れてしまい、幸せを感じる度合いも少なくなっていきます。
なぜ、幸せや満足度が減ってしまうのか。それは結局、生物の目的が「生き残って子孫を残すこと」だからです。満足しているときは、それ以上頑張ろうとは思いません。だから狡猾な進化は、一瞬の満足は与えても、ずっと満足しないように私たちの脳を設計しました。常に頑張って、自分の遺伝子を最大化するように強いられているのです。