悔しいはずのアイルランドファンが「コングラッチュレーション!」

――4年前の日本大会を平尾さんはどんなふうに見ましたか?

ぼく自身は選手として1999年のW杯ウェールズ大会に出場しましたが、生で観戦したのは日本大会が初めてでした。実は、それまで意識しなかったラグビーの魅力に気づけたんです。

静岡県袋井市の小笠山総合運動公園エコパスタジアムで、日本対アイルランド戦を観戦したときのことです。最寄りの駅で電車を降りてスタジアムに向かいました。日本代表のチームカラーである赤と白の法被を着た日本人と、アイルランド代表のグリーンのユニホームを着た外国人が肩を組んで記念撮影をしていた。いまから戦う相手チームのファンと、ですよ。ほかのスポーツにはない風景だなと感じました。

1次リーグ・日本-アイルランド。試合前に整列する日本代表。左から2人目がチーム最小の流大選手=2019年9月28日、静岡・エコパスタジアム
写真=時事通信フォト
1次リーグ・日本-アイルランド。試合前に整列する日本代表。=2019年9月28日、静岡・エコパスタジアム

試合は19対12で優勝候補アイルランドに日本が歴史的勝利を収めました。それ以上に驚いたのが、試合後、楽器を打ち鳴らしていたアイルランド人に「コングラッチュレーション!」と声をかけられたこと。当時、アイルランドは世界ランキング1位で日本戦は落とせなかった。ファンだって勝利を信じて応援していたはずなんです。それなのに、勝者を素直にたたえてくれる。

これが、ラグビーが育んだノーサイド精神なのかと思いました。勝ち負け以上に、ファンたちはラグビーというスポーツ自体を、素晴らしいゲームを楽しんでいた。

ラグビーにはサッカーや野球のようにチームごとの応援席がありません。敵味方のファンが入り乱れて観戦します。互いにいいプレーにはチームにかかわらず賞賛して拍手を送る。それもラクビーの特徴のひとつです。

不必要に勝利やナショナリズムを煽らない

「スポーツの国際大会は、ナショナリズムを高揚するから好きじゃない」と話す知人がラグビーW杯の試合を観戦したあとこんな感想を漏らしました。

「ラグビーは違うんですね。敵味方のファン同士がいがみ合うわけでもなく、一緒になってビールを飲んでいる。ほかのスポーツにはない雰囲気ですね」

プロ野球にしてもJリーグにしてもファンは贔屓のチームを応援するでしょう。オリンピックでは、メディアもファンも日本選手のメダルの数ばかり気にしている。

もちろんラグビーもファンは応援するチームに声援を送ります。でも、ノーサイドの笛が鳴ったあとは、ファン同士がビールを飲みながら健闘をたたえ合う。その風景こそが、ラグビーならではの魅力を象徴しているのではないでしょうか。