勝利至上主義に毒されそうになったら

――誰もが聞いたことがあるノーサイド精神という言葉が19年W杯では可視化されたわけですね。

オールブラックスが試合後、客席に向かってお辞儀するパフォーマンスが話題になりました。それもノーサイド精神のあらわれだのひとつといえるかもしれません。

南アフリカとカナダの試合もそう。前半36分にカナダのジョシュ・ラーセンという選手が危険なプレーでレッドカードを受け、退場になりました。試合後、彼は南アフリカ代表のロッカールームを訪ねて謝罪しました。そのあと、反則をした選手と反則を受けた選手が一緒に記念撮影した写真がSNSに投稿されましたよね。

――カナダ代表といえば、台風19号の影響で試合が中止になったあと、被災地となった岩手県釜石市で路上に溜まった土砂をスコップでかき出すボランティアを行って、日本中から感謝の声が送られました。

彼らは勝ち負け以上に大切な価値を示してくれました。現役時代にまったく意識しなかったのですが、ラグビーというスポーツが持つ5つの価値があります。それが、ラグビー憲章で示された「尊重」「規律」「品位」「情熱」「結束」です。

商業主義に飲み込まれそうになったり、勝利至上主義に毒されそうになったりしたときに立ち戻るべきラグビーの原点だとぼくは理解しています。

チームメイトの信頼が一つひとつのプレーにつながっている

ぼく自身の経験を振り返ってみても、ラグビーが持つ価値は特別でした。

山川 徹『国境を越えたスクラム 日本代表になった外国人選手たち』(中公文庫)
山川徹『国境を越えたスクラム 日本代表になった外国人選手たち』(中公文庫)

たとえば、スクラムは8人で組みます。誰か1人が力を抜いたらスクラムが崩れて大ケガにつながるかもしれない。フォワードの選手はスクラムを組むたびに、自分がベストを尽くさないと仲間を傷つけてしまう危険性があると常に意識しているはずです。

スクラムを組まないバックスの選手も同じです。フォワードが身体を張ってボールを奪ってくれるから、パスが回ってくる。パスをもらえなければ、トライはできません。

あるいはパスのタイミング次第では味方が相手のタックルをもろに食らって病院送りになる場合もある。危険だと察知したら、パスを放らずに自分から相手にぶつかって味方を守らなければなりません。それこそがチームメイトへの「尊重」や「信頼」であり、選手が守るべき「規律」です。そうしたプレーの積み重ねがチームの「結束」につながっていく。もちろんベースには「情熱」が不可欠です。