ひっくり返されても飛び込むのは「商人魂」があるから

受け渡しを終えて化学品の営業になってから、財閥系のメーカーにも飛び込み営業をしました。買ってくれることもあるんですよ。財閥系商社よりもいい条件をだしたら、先方もわかってくれる。ただ、同じ条件だったら、ひっくり返ることがたびたびだった。

「石井さん、ごめん、上司が同じ系列から買えと言うから」

ひっくり返されてもそれは挫折でも何でもないんですよ。

かえって、「絶対に負けないぞ」と商人魂が出てくる。若くても部長クラスに飛び込んでいったり、人脈を駆使して幹部を紹介してもらったり、幹部がよく行くという銀座の高級クラブに行ったり……。

「すみません、初めてご挨拶させていただきます、石井です」と言ったら、「お前は若いのにこんなところに来てるのか」って言われて。

自腹ですよ。それでも、ひっくり返されても、キャンセルになっても、ますます、飛び込んでいきました。

伊藤忠ってそういう商人魂があるんですよ。祖業の繊維部門なんかもっとすごい。

繊維の営業マンって商売に対して熱心で、私がタイで現地法人の社長をやっていた時、洪水(2011年)がありました。繊維のメンバーはいつの間にか海のようになった町を移動するためのゴムボートや、下半身まで覆う胴付きの長靴を売り歩いていました。商魂たくましいんです。彼らは、どこかの国にポンと放り投げても、何か商売して帰ってきます。

うちは財閥系よりも人は少ない。それでも彼らに伍してやっているのは商人魂があるからだと思う。

それから海外店だと財閥系は昔からの支社長の邸宅があります。一軒家の屋敷で、そこでパーティをやったりする。でも、うちは業績が苦しかった時代に売ったので、賃貸マンションです。パーティはできない。肩身は狭いけれど、それでも商人魂で頑張るしかない。

伊藤忠商事の石井敬太社長
撮影=門間新弥

現場に感動があれば、若手はちゃんと育つ

最近、入ってきた人たちは就職人気ナンバーワンで入ってくるので、ハングリー精神はあまりないのかなとも思っていたんです。ですが、違いました。

先日、アメリカに出張したんです。各地を回ったんですが、伊藤忠が出資している事業会社に出向している若手社員がイキイキとしてやってるのを見ました。最近の世代は冷めてると言われているけれど、そんなことなかった。私が見た彼らは現場主義で、現場同士でわいわいやって、仕事してました。

現地の事業会社を見に行った時、うちの若い社員が現地の社員とじゃれ合っていた姿でわかりました。昔、新橋の烏森口の赤ちょうちんにいた時の自分と同じ姿でしたから。仕事から得られる感動は現場から生まれる。現場にぶち込めば商人として磨かれるんです。

彼らは海外で外国人と押したり引いたりしながら入り乱れて仕事をしたいんだな、と。商社で仕事をする人って困ってる人を助けたいとか、この人たちと笑顔になりたいとか、成功体験を味わいたいとか、感動の現場にいたいんです。それが伊藤忠らしさです。彼らがちゃんと育っているのを見て、最後の夜、ちょっと飲み過ぎました。