社長は心配性じゃないとできない

こちらが情報をあげると向こうも情報をくれるようになる。三菱でも三井でも、みんな船積み担当者は仲間になっていく。「何かあったら伊藤忠の石井に聞け」と言われるようになり、少しは失敗を挽回できたと思います。

大切なのはリスクコントロールです。風が吹いて船が港に着かなかった場合はどうするか。他の港に揚げるのか。どうやったら被害を最小限に食い止められるのか。つねに最悪のシナリオを想定して、いくつかのオプションを持つようにしました。

今でも、役に立っています。仕事って、想定内であればもうかるんですよ。でも、世の中は甘くない。必ず想定外のことが起こります。そうすると儲からなくなる。儲けるには最悪のシナリオについても考えておくこと。それが商社パーソンの仕事だと思うんです。被害を最小限にして脱出することができるのかどうか。リスク管理を具体的にどういうふうにするかです。

伊藤忠商事の石井敬太社長
撮影=門間新弥

リスクマネジメントは大物には無理かもしれません。大物はイケイケになってしまう。私のような心配性じゃないとできない仕事です。岡藤(正広、会長CEO)さんだって、リスクに関しては細かくてかっちりしてますからね。

伊藤忠が第1志望というわけではなかった

伊藤忠に入った1983年の頃、大学生の就職人気は三菱商事、三井物産、東京海上、サントリーといったところで、残念ながら伊藤忠はトップ10ではありませんでした。商社を受ける学生は第1志望が三菱商事、第2志望が三井物産、第3志望が住友商事。丸紅と伊藤忠はどっちでもいいかなといった程度。

私自身、伊藤忠だけを志望していたわけではありません。ですが、就職試験の集団討論で、ここが自分にいちばん合うと思いました。

集団討論は最終試験のひとつ前。受験生同士があるテーマで議論をして、最終的に、ひとりがチームの結論と理由をまとめて報告する。私は今でもそのときにいたメンバーを覚えているんですよ。繊維部門の諸藤(雅浩 現デサント副社長)さんとか同じグループでした。諸藤さんの発言、印象に残ってます。

グループにはいろいろな人がいました。自分の言いたいことだけ言うやつ、すぐまとめようとするやつ、司会に徹するやつ……。うまく機能すると最終的に結論がまとまっていく。

私自身は司会者。MCでした。面白いことに、討論しているうちに仲間っぽくなっていくんですよ。

不思議ですけれど、討論をしていてアットホームな感覚になっていった。仲間になるんです。そこで考えました。

「三菱さん、三井さんに行ったら、もっと優秀なやつがいるだろう。それに財閥系の雰囲気が自分には合わないような気がする。それなら俺はここで生きていこう。ここが居場所だ」

そう思ったんです。実際、正解でした。伊藤忠って、アットホームな会社で、一緒にいるうちに自然とチームができていく。