連載#私の失敗談 第6回】どんな人にも失敗はある。伊藤忠商事の石井敬太社長は「いまだから言えることだが、当時は正直、採用してもらえる商社ならどこでもよかった。でも、財閥系の商社に入っていれば、いまの立場にはなっていなかったと思う」という――。(聞き手・構成=ノンフィクション作家・野地秩嘉)
伊藤忠商事の石井敬太社長
撮影=門間新弥

最初の配属先は、存続の危機にあった

伊藤忠商事は2年前の2021年3月期決算で株価、時価総額、純利益でトップとなる「3冠」を初めて達成した。それ以後、資源高もあって三菱商事、三井物産に次ぐ3位となっている。だが、かつての「総合商社万年4位」の姿はない。総合商社3強のなかで、もっとも注目されているのが伊藤忠だ。

その伊藤忠を指揮する社長COO(最高執行責任者)、石井敬太の失敗とは――。

【石井】新入社員の頃です。失敗・チョンボの毎日でした。ただ、人生最大の失敗というわけではありません。もし、最大の失敗をしていたら、クビになっていて、この立場にはいません。みなさんが期待されるようなドラマチックな「大失敗からの逆転人生」みたいなことは今の時代は難しいんじゃないでしょうか。

当社はリスクコントロールをきっちりやっていて、1人の人間が大事件を起こさないようにリスク管理しています。ただし、そうはいっても、小失敗というか、小さな判断ミスは日常で起きています。それは事実。

さて、失敗について。入社後、化学品の課に配属され数年がたった頃、課の決算に大きな穴があく程の巨額の損失が発生することが判明しました。原因は、思惑買いでした。

キシレンという化学品にリスクを張って多額の買い契約をしたところ、価格変動へのヘッジができず、コントロール不能な状態になって、課の経営が危うくなるほどの損失を負ってしまった。そんな時代でしたから、私は若手の頃からリスクコントロールって大事なんだなと思っていました。

2年で終わるはずが、5年間続けた

当社の新入社員は営業に配属されると「受け渡し」という業務に就きます。先輩が決めてきた商売の商品の受け渡しをする。商品を安全にお客さまのもとに届けてこそ仕事が完結するので、その部分を担当するわけです。

私は5年、やりました。通常は1年か2年ですが、新人が入ってこなかったから、やったのです。

化学品の受け渡しとは積み込むタンカーを手配すること。私の担当は国内と近海の手配で、例えば名古屋から京浜に運ぶ、徳山から神戸に運ぶ、あるいは京浜から宇部に運ぶ。毎日、8隻から10隻の船を手配して8種類程度の化学品を積んで運ぶ。

まだアナログな時代ですから、PCもスマホもありません。受け渡し用の分厚い台帳をめくって、配船を決めていく。今はもうメーカーさんがご自身でやっています。どこの船が本日どこにいるというのも電話で船会社に問い合わせていましたが、今は位置情報でわかるんじゃないですかね。

当時は商社が用船手配をして納入をしていました。その仕事を入社1カ月後ぐらいからやりました。