大臣級が動かないと問題が解決できない

2022年には農林水産副大臣が急遽モロッコに向かい、リン酸アンモニウムの供給をお願いした。農林水産省によると「安定供給に協力したいとの発言」があったそうだ。この応答は力強いと思うものの、トップが動かないといけないくらい食料・肥料原料の奪い合いが起きている。

地球の収穫量は増えるものの無限ではなく、人口増も大きい。異常気象も食の奪い合いを加速させる。実際に、肥料の国際価格は種類によっては数年前から数倍になっている。さらに窒素肥料の大部分はアンモニアを原料とするが、拍車をかけるように、各国の工場では燃料となる天然ガスなどの高騰で不安定さがにじむ。アフリカでは肥料の投入を抑える農家が増えるほどだ。

農作物でも家畜でもそうだが、育てるコストの上昇分を回収できるかは運しだいといえる。たとえば和牛を育てても、出荷するまでに数年がかかる。途中で飼料の高騰があっても出荷時点の市況価格とは関係がないためロスが生じる可能性があるからだ。

コメが過剰になり、小麦依存が進んだ戦後の日本

よく知られる数字だが、カロリーベースの食料自給率は38%だ。主食のコメは75%で健闘しているものの、小麦は17%、畜産物も16%にすぎない。カロリーベースだけではなく生産額ベースも下がっている。

もともと日本は記録の残る1930年には小麦の自給率は67%だった。戦後まもなくも40%を超えていた。しかし米国からの要請で過剰な小麦在庫を引き受け、学校給食でもパンを採用した。次にコメが過剰となり、小麦は世界への依存が高まっていった。

ロシアとウクライナは小麦の世界輸出量の3割を占めていた。戦争により、あるいは政治的に同二国からの供給が減ったのだから世界的な高騰は当然だった。どの国も世界価格に影響を受ける。アメリカ産やカナダ産も上昇した。政府は農家減少に歯止めをかけようとしたり、国内堆肥の活用、国内での小麦の生産への補助金を出したりしている。2030年までには食料自給率を45%までに伸ばそうとしているが、楽観はできない。

さらに、重要な穀物にトウモロコシがある。2020〜2021年にはトン100ドル強だったのが2023年初頭には250ドルほどに急騰している。中国が米国からの輸入を増やしている。米中経済戦争の結果、中国が交渉の末、米国に米国産の輸入増を約束した結果だ。

食料自給率が横ばいなのはむしろすごい

中国は米国に依存する形になった。そこでウクライナ戦争が起き、取り合いが本格化した。

ウクライナは世界のトウモロコシ輸出の10%強を占めていた。食料生産地帯を被害地とする戦争は市場を高騰させた。さらにウクライナの農家は穀物を長期保存する空調設備を有していない点も痛手だった。また、世界各地で天候不順もあったし、穀物を使ったバイオ燃料の需要も高まった。さらに日本は調達困難を味わった。

日本で食料・農業・農村基本法が策定された1999年から24年が経った。同法は食料の安定供給の確保を狙うものだった。ただ、そこから食料自給率は横ばいで上昇していない。ただ、よく横ばいで踏みとどまったというべきか。

農業に従事する人は123万人でほとんどが60歳以上。さらに廃業を選ぶ人たちもいる。当然、農地も総産出額も減っている。ここ近年、生産資材の高騰で農家は危機的状況に陥った。実際に農業関連企業の倒産状況を見るとコロナ禍が始まった2020年、2022年は過去20年で最多件数になっている。海外からの肥料や飼料は高騰。しかも国内では高く買ってもらえないからコストを自ら負担するしかない。

世界でもっとも農林水産物を輸入する国だったが…

高度成長期であれば文字通り日本は成長していたため、食料が値上がりしても調達できた。しかし相対的な地位は下がっている。もちろん無策だったわけではない。日本は第二次世界大戦を経て、さらに米国の禁輸措置、1973年の「大豆ショック」も経験したため予防的な取り組みを開始していた。他国への調達ソースの拡充や資金援助なども広げた。ただ現在では日本は食料の相対的な購買力が落ちている。

坂口孝則『買い負ける日本』(幻冬舎新書)
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100円で仕入れたものを200円で販売しているとする。仕入原価は50%だ。もし、諸外国の成長やインフレによって仕入れるものが200円になったとする。自国も成長し仕入れ価格の倍の400円で販売できれば問題がない。ただ、日本はそうではないので「調達する力」が落ちている。

昔の経済力のままなら既存の構造で良かったのかもしれない。1998年には世界のなかで農林水産物をもっとも輸入しているのは、533億ドルの日本だった。日本は最重要顧客で誰もが日本を向いていた。しかし人口急増と経済成長により、2021年には中国が1251億ドルとトップになった。なお中国は世界の食料消費量に占める比率として、野菜と豚肉で50%前後、果物・穀物が25%前後と、圧倒的な状況にある。

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