仲間だったはずのファンドから突然の裏切り

そして今度は、MBOを一緒にやった知り合いのブティック・ファンド(大手の金融企業系ではない独立系のファンド)との間でトラブルが発生することになりました。

その知り合い(以下、Aさん)は、元々ヘッジファンドにいたのですが、ヘッジファンドの切った張ったの世界に嫌気が差してしまい、「企業を育てる仕事をやりたい」とベンチャー・PE・ファンドを立ち上げたということでした。他に野村証券系と日興証券系のファンドとも話を進めていたのですが、トップの顔が見えるファンドとやるべきだと意気投合し、Aさんのファンドと一緒にやりましょうということになったわけです。

MBOを実行した当初、Aさんのファンドは40%近い株を持っていました。ファンドの期限は6年でしたが、Aさんは「最低でも10年は持ちますよ」と言ってくれていました。なにしろ企業を「育てる」ためにファンドを始めたわけですから、長く持つのは当然のことでしょう。

ところが……。

MBOからわずか2年しか経たないうちに、Aさんが売りに動き始めたのです。僕はもう、「えーっ、なんで?」という驚きを隠すことができませんでした。

信頼していた仕事仲間から予想外の裏切りに遭った
撮影=髙須力
信頼していた仕事仲間から予想外の裏切りに遭った

タリーズの売却=ブランドが損なわれる危機

タリーズはのれん代償却が重かったですが、EBITDAでは利益を出していました。情報を収集してみると、どうやらAさんは他の投資がうまくいっていないようでした。代表の「顔」でお金を集めているブティック・ファンドの場合、1号をしくじったらおそらく2号、3号は組成できなくなります。日本は、失敗が許されない国なのです。

買い手として大手ファンドが手を挙げていましたが、その経営方針によっては、タリーズのブランドが大きく損なわれる恐れがあります。しかし、ブティック・ファンドはタリーズの株を40%持っていましたから、彼らが他の株主を1~2名巻き込んで、役員会で売却を主張すれば、僕にはこの計画を止める方法がありませんでした。なぜなら僕は、自社の株を20%しか持っていなかったのです。

僕は、この一連の出来事の中で、ある確信を得ました。それは、

「結局、ファンドは金だ」

ということです。