なぜ日本人は英語を使いこなせないのか。慶應義塾大学教授の今井むつみさんの書籍『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか? 認知科学が教えるコミュニケーションの本質と解決策』(日経BP)より、日本語の「着る」と英語の「wear」の違いについての解説をお届けする――。

「頭の中」を共有することはできない

そもそも「話せばわかる」というとき、私たちは何をもって「わかった」としているのでしょう。

「相手の話がわかる」ということを、段階を踏んで表現すると、

①相手の考えていることが
②言語によってあなたに伝えられ
③あなたが理解をすること

といえます。

ここで問題となるのは、それぞれの頭の中をそっくりそのまま見せ合ったり、共有したりすることはできない、ということです。

それは単に「言葉によってすべての情報をもれなく伝えることはできない」というだけではありません。

「ネコ」という言葉のイメージは人それぞれ

言葉を発している人と、受け取っている人とでは、「知識の枠組み」も違えば「思考の枠組み」も異なるため、仮にすべての情報をもれなく伝えたとしても、頭の中を共有することはできない、という話です。

例えば「ネコ」という言葉を聞いたときに、「自分の家で飼っている子ネコ」をイメージする人もいれば、「ハローキティ」や「トムとジェリー」に登場するキャラクターとしてのネコを頭に浮かべる人もいます。

昔引っかかれてけがをした経験から「凶暴」なイメージを持つ人もいれば、ぬいぐるみのような「愛くるしい」イメージを持つ人もいるでしょう。「やわらかい」というイメージを持つ人もいれば、「不潔」なイメージを持つ人もいるかもしれません。

「ネコ」という言葉のイメージは人それぞれ
写真=iStock.com/elenaleonova
「ネコ」という言葉のイメージは人それぞれ(※写真はイメージです)