タリーズ売却劇から得た経営者としての教訓

自分がゼロから育てた会社を譲渡せざるを得ないのは、正直言って口惜しいことでした。しかし、こうした事態を招いてしまったのは、自分の甘さだったとしか言いようがありません。

僕は自社の株式を20%しか持っていませんでした。先ほども言いましたように、「出資者は仲間だから、出資額は均等にするべきだという」という考え方を持っていたからです。ゼロからイチを作るスタートアップの段階なら、僕のような考え方は必ずしも間違いではなかったと思います。

もちろん一般的には、スタートアップの場合でも創業者が過半数を持って、他の出資者はマイノリティーになってもらうのが定石であり、この出資比率の部分で、もっとシビアになっていればタリーズを手放すことはなかったかもしれません。

会社が大きくなってくると欲が出てきてしまう

しかし、僕には別の思いもあったのです。

それは、「自分は経営者として最も適任だ。経営戦略において間違いはおかさなかった」という思いです。たとえ20%しか株を持っていなくても、僕に対して「会社から出ていけ」と言える人はいないと思っていたのです。もしも、「松田公太は経営者として能力がないから会社から出ていけ」と言う人がいたら、喜んで出ていってやるとさえ思っていました。

青いといえば、青い考え方ですよね。

結果的に僕はお金の力で追い出されることになってしまったわけですから。いや、お金の力というより、欲の力でしょうか。スタートアップの時は理想に燃えていても、会社が少し大きくなってきて一株の値段が何十倍、何百倍ということになってくると、人間、欲が出てきてしまうものなんですね。

その後、2010年にパンケーキで有名なハワイのレストラン「エッグスン・シングス」の世界での展開権を取得しました。これが正解なのかどうかも分かりませんが、今回は僕が株式を100%持っています。経営者としても、政治家としてもそうでしたが、どうしても両サイドを試したくなるのです。その両方を経験して最適解を見つけたくなるのです。