田中周紀(たなか・ちかき) 
1961年生まれ。上智大学文学部を卒業後、85年に共同通信社に入社。95年から97年まで本社社会部で国税当局を取材。2000年にテレビ朝日へ。『ニュースステーション』のディレクターを務め、06年から再び国税当局を取材。10年テレビ朝日を退社。

国税記者。あまり馴染みのない職業だが、一体何をしている記者なのだろうか。

「国税局査察部は、日本で一番口が堅いといわれます。そこを突き崩して脱税犯に関するネタをとり、テレビで使う決定的な映像を撮るために昼夜問わず張り込む、記者業のなかで最も忍耐を必要とする取材ですね」

テレビ朝日の敏腕国税記者として第一線を走ってきた田中周紀氏が、脱税犯の様々な手口とその背景に迫る。

例えば、地上げ屋・遠藤修。宗教団体を使った地上げに目をつけた男だ。休眠状態の宗教団体を買い叩き、宗教に対する世間のネガティブイメージを巧みに利用して地上げをした。怪しいお経を大音量で流す、お香や線香を焚く、白装束を着せた部下を出入りさせる。こういった嫌がらせを連日徹底的に行い、住民を追い出す。そうして得た金を脱税し、遠藤が隠した所得は57億円を超える。当時、田中氏が取材にあたった際、その宗教団体事務所に排ガスで黒ずんだ腕のない聖徳太子像が飾られていたという。

「巨額脱税犯には、子供の頃に差別を受けたり、理不尽な思いをして、いつかお金を掴んで日本社会を見返してやるぞという人がいる。社会的強者に対する嫉妬心が、彼らの原動力なんです。だから会社勤めなどせず、事業やベンチャーも積極的に興すような、強烈なバイタリティに溢れている」裕福とはいえない幼少時代。苦労して得た金。脱税犯には納税という選択肢自体なかったのだろうか。

「彼らにとって金儲けや脱税は、コンプレックスを克服する手段なんです。それが法に触れているというところに人間の業というか悲しさがあるなと思います」と、田中氏は語る。

さらに本書では、お茶の間を賑わせたニューハーフ美容家「岡江美希」の脱税や、当時「小倉優子」等の人気タレントを有した芸能プロ「アバンギャルド」の脱税等、様々な巨額脱税犯への取材の中で、査察部の内情や「抜いた、抜かれた」の記者同士の競争、そして脱税犯がいかにして犯罪に身を染めるか。三者三様のさながら人間ドラマがめまぐるしく展開する。

途方もない額の脱税事件がしばしば報道されるが、報道の裏側でギリギリの取材を続ける記者の実情を知る人は、ほとんどいないのではないだろうか。

「国税記者のことなんて誰も知らない。新人記者や税に疎い若者、そういった人たちにとっての教科書のようなものをつくりたかったのです」