アルコール依存症に詳しくない医者が多い

――国税庁は若者に日本産のアルコールをもっと飲んでもらいたいようですが、寛容な飲酒文化に対する究極の責任は政府にあるのですよね? 政府はどのような規制や措置を講ずるべきでしょうか。

まず、アルコール摂取の影響やアルコール依存症に関する教育を充実させることだ。ある日本の医師と話したとき、彼は、こうジョークを飛ばした。「医学部では、アルコール依存症について、わずか30分しか学ばない」と。

つまり、アルコール依存症に関する授業時間は、6年間の学生生活で「滑稽」なほど短いという意味だ。そして、もちろん、それは「危険」なことでもある。医師が患者のアルコール依存症を認識・診断し、治療する態勢が整っていないのだから。患者に十分な情報を与えて治療法を選ばせる「インフォームド・チョイス」が可能になるよう、医療関係者の教育を充実させることが重要だ。

駅のポスターで、飲みすぎるとホームから落ちるぞと警告するよりも、アルコールに関する十分な教育と知識を備えた医療関係者を育成することがカギだ。

社員の健康には気を配るのに飲み会を強要する不思議

――日本企業についてはどうでしょう? クリスマスパーティーなどの費用は基本的に会社が負担するアメリカと違い、日本企業では従業員が費用を出し合うことが多く、事実上、参加が必須の場合も多く見られます。従業員が飲み会参加への重圧を感じないよう、また、参加しなくても昇進や異動で不利益を被らないよう、日本企業はどのように従来の飲酒慣行を変えるべきでしょうか。

やはり、より良い教育が一助となる。長期にわたる深酒が健康に及ぼす影響を人々が十分に認識するようになれば、従業員は、飲み会を「仕事」の一環として捉えるよう期待する上司などに「ノー」と言いやすくなる。つまり、「健康」を不参加の理由に使えばいい。

従業員の健康に留意するという点から考えると、日本企業の行動には、非常に興味深い「矛盾点」が垣間見える。

会社の健康診断で「メタボ検診」などを実施しながら、一方では飲み会を開く。飲酒に関し、より健全な慣行を促すことこそが、従業員に健康上の目標を達成させるためのストレートなやり方だと思うのだが。こと飲み会となると、話は別のようだ。

日本の飲酒文化は「家族や自分の時間」を奪っている

――日本の男性が、アフターファイブの飲み会など、日本社会のシステムに組み込まれている飲酒文化によって失うものは?

なんと言っても大きいのは、「家族との時間」だ。そして、趣味など、「自分自身のために費やす時間」も犠牲にしている。

二日酔いで貴重な時間を無駄にすることも問題だ。私が話を聞いた日本の男性の多くは、「たとえ自分自身や家族のために時間を使いたいと思っても、二日酔いで週末がつぶれてしまう」と、こぼしていた。

ポール・クリステンセン(Paul Christensen)
米ローズハルマン工科大学准教授
文化人類学者。現代日本における飲酒文化やアルコール依存症からの回復、ジェンダー、特に男性性などの分野に関心がある。著書に『Japan, Alcoholism, and Masculinity: Suffering Sobriety in Tokyo』(2014年)。サンフランシスコ州立大学で修士号、ハワイ大学マノア校で文化人類学の博士号(2010年)を取得。博士論文は、日本のアルコール依存症と男らしさについて。ローズハルマン工科大学は米中西部インディアナ州にある。
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