中流層は泥酔しても守ってもらえる

――日本で​は電車の中で泥酔し、終点まで寝入ってしまっても、持ち物を取られたり、危害を加えられたりすることはめったにありません。屋外で酔いつぶれる人もいます。日本の治安の良さは、飲酒文化にどのような影響を与えていると思いますか。

私は今、東京のホームレス問題について研究を始めたところだが、路上生活者の多くが警察や酔った人々から嫌がらせを受けている。仮に路上生活者が酔っていたら、袋叩きに遭ったり、持ち物を取られたりしかねない。

酔っても一定の身の安全が保障され、守ってもらえる立場にあるのは、山手線で通勤しているような中流層のサラリーマンだろう。その点を明確にしたうえで言うと、日本社会では、ハイレベルの治安の良さが一連の飲酒慣行を可能にしていると言えるかもしれない。

あるいは、人前で酩酊めいていしたり寝込んだりする人が多いという日本の飲酒慣行ゆえ、治安の良さが必要とされ、警察によるしっかりした見回りなどにつながっているという面もありそうだ。

日本の泥酔者は「治安の良さ」を当てにしている

また、これはジェンダー色が強い問題でもある。中年男性は、酔って電車の中や公園、歩道で寝込んでも大した心配は要らないだろうが、女性はそうはいかない。

ハイレベルの治安の良さが飲酒を助長させているとまでは言わないが、治安の良さを当てにし、飲みすぎて車内や公園で寝込んでも大丈夫だと考えるきらいがあるのは確かだろう。つまり、治安の良さが飲酒に関する意思決定プロセスや考え方に影響を与えていると言えるかもしれない。

特に中流層の男性にとっては、ハイレベルの治安の良さが、さらなる飲酒を促す結果になっている。

何年か前、東京に滞在していたときのことだ。夜道を歩いていたら、1人の男性が歩道で酔いつぶれ、彼の胸の上に乗っている携帯電話が鳴っていた。もちろん、見ず知らずの人だったが、携帯電話を手に取って(日本語で)応答したところ、電話の主は彼の居場所を捜していた。私は場所を告げて立ち去ったが、おそらく、誰かが迎えに来たことだろう。

また、ちょうど1年前、東京に3カ月間滞在したのだが、1日に4~6回、立小便をする男性を見かけた。想定を上回る頻度だった。

飲みすぎて吐いたり、千鳥足になったり、ギョッとするような場所で寝込んだりすることについては、もう少し責任感を持ってもいいのではないか。低賃金で働かされている居酒屋のスタッフが、深酒する客が汚した店内を掃除する羽目に陥るようなことにならないよう、もっと配慮を持つことは可能だろう。要はバランスの問題だ。

男性
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