何歳でもIDをチェックされることのあるアメリカ

――アメリカにおける飲酒年齢は21歳、日本では20歳です。日本でも、コンビニエンスストアなどの量販店でお酒を買う場合、レジのタッチパネルを使った年齢確認が実施されるようになりました。

あなたの著書『Japan, Alcoholism, and Masculinity: Suffering Sobriety in Tokyo』(『日本、アルコール依存症、そして、男らしさ 東京で断酒しようと苦闘する』(仮題・未邦訳)には、「私が知る限り、アルコールの自動販売機が広く普及している国は世界中で日本だけだ」と書かれています。ただ、同書の刊行(2014年12月)から8年余りたっており、現在では、日本でも、アルコール自販機の数が大きく減っています。年齢確認や自販機の激減といった動きをどう評価しますか。

いい変革だが、建前と実際の慣習には相違が付きものだ。日本でも、アメリカのような年齢確認のシステムが根付くか、それとも、そうしたシステムが徹底されず、これまでの慣行が続いてしまうのか。

一定の構造を構築することはできるが、(飲酒への緩いアクセスという)長年続いてきた慣行ゆえ、年齢確認に無頓着だったり、年齢を厳しく制限することにさほど関心がなかったりする人もいるのではないか。

ひるがえってアメリカでは、40代の私も、いまだにIDカード(公的身分証)の提示を求められることがある。21歳未満だと思われているわけではない。IDのスキャンなど、小売店による年齢確認が社会システムに組み込まれているからだ。

自販機が大幅に減っていることは認識している。自著を執筆していた頃、ちょうど日本の自販機に年齢識別用IDカード読み取り機が備え付けられ始めたところだった。だが、今でも、自販機は完全に撤廃されたわけではない。東京のどこに残っているか、場所を言えるくらいだ。

最終的なゴールは何なのか。(完全撤廃など)国際的な水準に合わせようとしているのか。それとも、未成年者の購入を防止するために減らしているのか。

セルフレジでも酒を購入できるようになった日本

――日本では2023年1月末から、コンビニエンスストアのセルフレジにIDカードの読み取り機を備え付けることで、セルフレジでもアルコールが買えるようになりました。この動きについて、どう思いますか。

大変興味深い。私の推測だが、今回の措置は、コンビニエンスストアのアルコールの売り上げ増を目的とするものではないか。時間帯を問わずに気兼ねなくアルコールを買えるようになれば、売り上げ増につながる。

――あなたが指摘するように、日本は他国に比べ、お酒へのアクセスが容易です。しかし、世界保健機関(WHO)によると、アルコール依存症の人々の割合は、日本より規制が厳しいアメリカのほうが多くなっています。なぜでしょうか。

データの集計には「政治」が大きく関わっているように思える。自助グループなど、集計元によってデータが異なる。正確な数字をめぐっては、国内でも異論があるのではないか。

また、文化人類学者は、数字よりも、どう問題に対処するかという点に関心がある、日本であまり議論されていない、隠れた問題とも言えるものは、アルコールの消費をめぐる政策がどのように検討され、作られているのかという点だ。どのくらい多くの人々が飲酒で健康を損ね、自分自身や他の人たちに悪影響を及ぼし、そうした問題がどの程度、社会で認識され、議論されているのかという点も見えてこない。

公式な数字では、確かに日本におけるアルコールの乱用度は低い。だが、年齢確認の緩さや自販機の存在、公共の場所における飲酒や泥酔への寛容さなど、このインタビュー(前後編)で話してきたことすべてが物語っているように、日本は「お酒飲みのパラダイス・楽園」だ。