どうしても怒りを抑えられない時にしたこと

わたしはしばしば、「覇気がない」と批判されることがあった。

勝っても負けても常に淡々としているからであり、成功しても、失敗してもいつも表情が変わらないからである。

もちろん、わたしにだって喜びもあれば怒りもある。その感情をそのまま表に出すことで、自分のパフォーマンスが向上するのであれば、積極的に感情表現をしたことだろう。しかし、感情の赴くままプレーしたとしても、決していいプレーができるはずもなく、むしろパフォーマンスの妨げになると考えていた。

怒りを爆発させているのは自分を強く見せたいためのパフォーマンスなのではないのか? 本当は弱くて自信がないからこそ、あえて示威行動として「怒り」を利用しているのではないのか?

わたしは、「怒り」をそのようにとらえている。

では、試合中にどうしても抑えることのできない「怒り」を感じたときにはどうすればいいのか?

わたしの場合は、怒りのベクトルを他人ではなく、自分に向けるように意識してきた。なにか腹が立つことが起こったとき、まずは「どうして、この人はこんなことをするのだろう?」とか、「なぜ、こんなことをいうのだろう?」と考えるのだ。

自分の思いどおりに物事が進まなかったときには、「なにがいけなかったのだろう?」「失敗の原因はなんだろう?」と考えるのである。

「どうして?」「なぜ?」という問いかけ

怒りのベクトルを「他人」にぶつけると、そこからは反発しか生まれず、相手との衝突も避けられなくなる。

そうではなく、腹立たしい出来事に遭遇したり、苛立ちを感じたりしたときには、自分自身に対して「どうして?」「なぜ?」と問いかけてみるのだ。

部屋でうなだれる人のシルエット
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最初は慣れないかもしれないけれど、わたしは大学生の頃から「どうして?」「なぜ?」と問いかけているうちに、気がつけば無意識にできるようになっていた。鳥谷敬を演じているうちに、怒りの感情をコントロールできるようになっていたのだ。

タイガース時代の終盤、なかなかチャンスが与えられなかった。もちろん悔しさはあったけれど、怒りに任せて自暴自棄にならずに済んだのは、この思考プロセスがあったからである。

怒りのベクトルは「他人」ではなく、「自分」に向ける――。

これが、誰にでもできる、「鳥谷流アンガーマネジメント」である。