この裁判は、ノーザン・ソングス側も、ビートルズ側とあまりこじれるのは得策ではないということで、かなり譲歩をして和解している。あまり強く主張して、ジョンとポールが曲を書かなくなっては、元も子もないからだ。

ジョンとポールの新曲の印税はノーザン・ソングスが持っていたが、二人は新たな曲を書く義務はなかったので、まったく曲を書かないという選択肢もあったのだ。

ノーザン・ソングスは、自社が所有するビートルズの楽曲の印税の半分を作家(ジョンとポール)に払い、残りの半分をノーザン・ソングスとビートルズ側の会社(ジョンとポールがそれぞれ新しくつくった会社)で分け合うことにしたのである。

つまり、それまで100%ノーザン・ソングスに取られていたレコード印税を、ジョンとポールが75%ももらえるようになったわけである。

ノーザン・ソングスから見れば、ビートルズは楽曲の権利を、いったん全部売却したわけである。だから、ジョンとポールに著作権の印税の支払いをするいわれはまったくない。にもかかわらず、印税の75%もの支払いをすることにしたのだ。

ソニーの子会社にたどり着く

なぜ、このようにジョンとポールに有利な条件で、和解したのか?

ノーザン・ソングスは、この和解と同時に、ジョン、ポールとのあいだで新たな契約を結んだ。ジョンとポールが、1980年までに発表する曲の出版契約である。

つまり、ノーザン・ソングスとしては、過去のビートルズの曲の印税を譲って、その代わり、これからのジョン、ポールの新作で稼がせてもらおうとしたわけである。

大村大次郎『お金の流れで読み解く ビートルズの栄光と挫折』(秀和システム)
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しかし、ノーザン・ソングスは、ジョンとポールに対する印税の支払いには応じたが、曲の権利自体は保持したままだった。

その後、ノーザン・ソングスの株は、さらに売りに出され、ビートルズの楽曲の権利は漂流することになる。もちろん、ビートルズの楽曲の権利は超高値で取引されたので、相当の資産家ではないと入手できない。

一時は、故マイケル・ジャクソンが手に入れた時期もあったが、スキャンダルの訴訟費用などの捻出のために手放し、現在はなんとソニーの子会社が所有している。

2017年、ポールが著作権の返還を求める裁判を起こし、ソニーと和解したと見られるが、和解条件については公表していない。

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