引きこもりの子供を社会復帰させるには、どうすればいいか。C君は高校を中退後、5年間引きこもり、家庭内暴力もふるっていた。両親は「妹の進路に影響がある」と心配していたが、相談を受けた塾講師の河本敏浩さんは、妹に対してひそかに5つのミッションをあたえた。河本さんの著書『我が子の気持ちがわからない 中流・富裕家庭の歪んだ親子関係を修復に導く17のケーススタディ』(鉄人社)より、一部を紹介しよう――。(第3回)
ショートヘアの女子学生の後ろ姿
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ハサミを突き刺す…引きこもり兄の暴力に翻弄される家

子供の引きこもりと家庭内暴力は親子問題の最終形である。改善策は見つからず、親は我慢を受け入れ、家庭内の秘密として社会から隠される。しかし、偶発的な機会から私のもとにこの手の話が持ち込まれることがある。

保護者対象の教育講演のあと、1人の母親が相談を寄せてきた。

何でも、高校3年になる娘が大学入試に怯え、合格の可能性の高い学校しか志望していないという。その考えを尊重したほうがいいのか、上の大学を目指すよう促すべきか。母親の質問を聞いて、私は娘が中学や高校の入試体験の失敗を引きずっているのではないかと考えた。実際、あまりに堅実な志望校選びは過去の挫折体験に起因している場合が多い。

が、母親は娘の受験に関し特に思い当たる節はないという。

では、娘を取り巻く環境に何か問題があるのではなかろうか。私の問いかけに母親はしばし沈黙したあと、絞り出すように声を発した。実は娘の4歳上の兄・C君が受験に失敗して長らく引きこもり、家のなかで暴力をふるっている。娘はその様子を見て受験の失敗に対して極端な恐れを抱いている。恥ずかしい話だが、自分たちではどうすることもできない。母親は俯きながら特別な事情を話し、再び黙り込んでしまった。こうして私とC君の家族との関わりが始まった。

後日、母親に私の事務所に出向いてもらい、詳しい話を聞くことにした。C君は当時21歳。中高一貫校に入学し、辛うじて高校に上がることはできたが、ほどなく不登校となり中退。そこから本格的な引きこもり生活がスタートし、すでに5年になるそうだ。

暴力が始まったのは、それより以前の中学2年からだった。物に当たる、壁を蹴る。日増しにエスカレートしていく暴力に父親は強い言葉で挑み、れた果てに、C君の髪を掴み「学校に行け!」と引っ張り回した。対してC君は反撃に転じ、手元にあったハサミを手に父親と向かい合う。

冷静になれという父の呼びかけに、ハサミを持った彼は大声を上げ、自分のベッドの掛け布団に何度も突き立てた。そして最後はボロボロになった布団に突っ伏して号泣したそうだ。以来、暴力は激しさを増し、話をするため部屋を訪れた父親にハサミを振りかざし、父親が危険を感じ避難するまでに至る。