キーパーソンは「妹」

C君は、自身の要求で台所の片隅に置かれた少額の現金を持ち、深夜、稀にコンビニに出かけることもあった。

深夜のコンビニエンスストア
写真=iStock.com/egadolfo
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その隙に親が彼の部屋に入ろうとしても叶わない。C君は部屋のドアに自ら鍵を取り付けていたからだ。ただ、アマゾンで掃除グッズの購入履歴があり、部屋は整頓されているような雰囲気を漂わせていた。

引きこもりや家庭内暴力を快方に向かわせるためには、子供と親を引き離す必要がある。そこで重要になるのが第三者。外部の人間が望ましいが、このケースにおいては妹の存在がキーとなるだろうと考えた。

母親によれば、妹は兄の暴力に巻き込まれていないという。C君がふらりとリビングに現れるのは決まって妹が自室に退いたあとで、C君が暴れても部屋から出てこないよう両親から言い渡されていたので、兄が父親に掴みかかる様を見たのはこれまで一、二度しかないそうだ。兄妹の関係は良好とはいえないまでも決して険悪なものではなく、妹が幼い頃にはC君は兄らしい一面を発揮することもあったそうだ。

そこで、まずは指定校推薦(受ければほぼ合格する試験制度。一般的に9月に校内選考、11月試験、12月初め合格発表)で大学入試に向かう妹の小論文の対策をするという名目で、彼女に私の事務所まで足を運んでもらうことにした(一緒にやってきた母親には同席を遠慮いただいた)。

まずは90分、小論文指導を行ったあと、兄の状況を聞いていると前置きしたうえで、目標を持って勉強を頑張らず、指定校推薦で合格確実な大学を選んだのは兄の影響があるのか聞いてみた。対し、彼女は、それはあると明言した。

妹の目に、兄の暴虐は中学受験の際に親が望むようなレベルの学校に行けず、それを叱責されたことが原因のように映っていた。自分に関しても、親や教師からもっと難しい大学にチャレンジすればと言われても、兄の一件があり、大学入試は合格第一の安全運転を心がけたいという。

「兄は気の毒」

今の家庭状況について、兄の顔色を日々うかがう両親は大変で、一方兄には気の毒に感じているそうだ。兄が暴れるのは両親に何か問題があったのだろうと彼女なりに推測し、少なくとも引きこもり、時折暴れる兄を自分の人生の障害として邪魔に思う気持ちはないようだった。

私は妹に、兄のための協力と、年末までの再訪を依頼し承諾を得た。目的はもちろんC君を部屋から出し、新しい道に向かわせることにある。そのためには、私がこれから彼女に依頼するミッションを両親に逐一報告しないことも約束してもらった。

進む大学が決まった12月半ば、妹は再び私のもとを訪れた。いったい自分が何をやらされるのか、少々怯えている様子だったが、兄の救出に力を貸す意欲ははっきり見て取れた。