成績が悪い時に殴っていた

私は母親に聞いた。小学生の頃、父親がC君に暴力をふるったことはないか。

すると、塾の成績が悪いときや宿題をさぼったときに幾度か手を上げたことがあるという。本当に幾度なのか。親は皆、自分の罪を過少に申告する。「数度の体罰」は「なかったこと」になり、「苛烈な体罰」は「幾度かある」という言葉に化ける。問い詰めることはしなかったが、私は父親が息子に対し頻繁に体罰という名の暴力をふるっていたものと確信した。

座り込んで耳をふさぐ子供
写真=iStock.com/Favor_of_God
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C君は小学校を出て、中高一貫の私立中学に進む。それは親をがっかりさせるレベルの学校だったが、彼の意向をよそに塾の模擬試験の偏差値から父親がセレクトしたものでもあった。勉強が出来ず、自尊感情が損なわれ、そこに親の暴力が加わる。誰からも救済の手は伸びなかった。

結果、彼は高校に入ってまもなく引きこもり状態に陥る。父親が仕事に出かけ、妹が登校し、さらに専業主婦の母親が買い物に行った隙に冷蔵庫をあさり風呂に入る昼夜逆転の生活。家族が家にいる間は部屋の向かいのトイレに行く以外、基本、自室にこもっていた。いつしか両親はC君とのコミュニケーションをあきらめ、母親が食事を部屋の前にお膳で置くだけの関係が残る。

息子に怯え要求をのむしかない両親

そんな彼が部屋を出て暴れるのは、決まって買い物に関する要求が聞き入れられないときだった。

最初はアマゾンで自由に買い物ができるようリクエストし、それを父親が拒否するとリビングのテーブルをひっくり返し父親に掴みかかった。母親が仕方なくクレジットカードの使用を認めたところ、カップラーメン、アニメのDVDからパソコンまで欲しいものを注文し放題。両親が設定した買い物枠はすぐに限度を超え、そのたびC君は暴れ、家具を破壊した。親は、大きな買い物はメモに残してくれれば必ず買うと提案し、それを約束するしか術はなかった。