何度も転びながら駆け抜けた40年

——瀬戸さんは、約40年、「マトリ」を続けられてきた原動力は何だったのですか。

瀬戸 晴海『マトリ 厚労省麻薬取締官』(新潮新書)
瀬戸 晴海『マトリ 厚労省麻薬取締官』(新潮新書)

最初は憧れから入りました。若い頃、海外の映画を観て、捜査官に憧れて……。そういった中で、やっぱり1つの犯罪組織を壊滅するために追いかける。「シャブ屋の骨までしゃぶる」というような意識に似ていて。それに対してものすごい野心が出てきたのです。

国内外を問わず、これまでに相当数の事件に関わりました。ところが、記憶に鮮明に残っているのは、不思議と悲惨な事件ばかりなのです。憤りを覚えるような事件に接すれば接するほど、だんだんと本気度が高まっていきましたね。そうした思いが積み重なっていきました。きれいな言葉で言えば、自分の「使命」になっていったということなのです。

だから、手間のかかる厳しい事件であっても「じゃ、俺たちがやろうか」という熱い気持ちになっていく。そして、すべてを注いでしまう。ですから、「仕事」という認識はあまりありませんでした。2018年3月に、麻薬取締部を退職した時に「あれ、もう終わってしまったのか」と感じました。短距離走を何度も転びながら駆け抜けたような印象なのです。

「まだ、世の中の役に立ちたい」

——今後、何に取り組んでいきますか。

まだ、世の中の役に立ちたいというのが正直な気持ちです。身体がもつ限り薬物問題に携わっていくのが務めではないかと。これまでのネットワークや経験を生かし、国内外の薬物事象や諸問題を幅広く収集・分析して、分かりやすく発信していけたらと思っています。

「SNSなどを通じて広がっている子どもの薬物問題」「海外展開する企業向けの注意点」「最近の薬物のトレンド」など広く伝えていきたい。今度は、民間だからこそ、多くのことができると思っています。

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