内視鏡 東京医科歯科大学大学院●戸原 玄

リハビリで胃ろうが抜けた例も

東京医科歯科大学大学院・戸原玄准教授の一番の「武器」は、喉の内部を観察する内視鏡だ。戸原氏が専門とするのは、摂食・嚥下リハビリテーション。「食べ・飲み・飲み込む」機能が低下している患者の機能回復をめざす分野だ。

内視鏡を鼻から挿入し、喉の状態を検査。訪問診療して、手術が必要だと判断した場合は耳鼻科に橋渡しするなど、連携が取れている。

喉を内視鏡で検査することが多いのは、主に耳鼻咽喉科。歯科医がなぜ喉を診るのかと疑問に思うかもしれない。実は今、嚥下障害によって誤嚥性肺炎を起こす高齢者が多いのにもかかわらず、耳鼻咽喉科だけでは日本全国の在宅でのリハビリのニーズに対応していけるだけの人的リソースが足りていない状況だ。また近年、咀嚼機能の回復や口腔ケアの徹底がその予防につながることが判明した。そこで歯科特有の咀嚼機能回復についての理解・技術を持ったうえで、嚥下にまで対応できる「口腔医」が求められているという背景がある。

この必要性にいち早く気づいた戸原氏は、約15年前から主に訪問診療で摂食・嚥下障害の患者の状態を見極め、それに合ったリハビリを実施するようになった。これによって多くの患者が食べる力を取り戻し、なかには胃ろうが抜けた人もいるという。

「5種類ほどの食べ物を用意して患者さんに食べてもらい、きちんと飲み込めているかを内視鏡を使ってチェックします。そして患者さんの状態に合った食べ物の種類や粘度を特定し、それを使って少しずつ食べる練習をしてもらいます」

咳き込むなどの自覚症状はなくても、実は喉に食べ物が引っかかっていたり、肺に入り込んでしまっていたりするケースは少なくない。外から見ただけではわかりにくいゆえ、内視鏡の検査が必要になる。

探すのは「歯以外で着手できるところ」

「内視鏡の操作そのものは、特別難しくありません。難しいのは、リハビリの方向付けですね。かかっている病気の状況、薬の服用状況、家族との関係、本人のやる気、スタッフの理解や協力度など、いろんな要素を総合して考えます。また患者さんの食べる機能が、回復途上なのか、下降途中なのか、どの位置にあるのかによってもリハビリ内容は変わってくるので」

最近はエコーを使って喉付近や舌の筋肉の質・量を確認し、弱っている部分をピンポイントで特定できるようになってきた。この場合は弱った筋肉を鍛えるためのリハビリメニュー(口を大きく開けるエクササイズなど)が組まれる。

歯科医である戸原氏だが、リハビリは「歯以外で着手できるところから探す」ことを心がけているという。

「たとえば、『座っている時間を増やしましょう』という簡単なアドバイスをすることがあります。最近、食べる力は、体幹の筋肉や首の太さが関係しているということがわかってきました。寝た状態で過ごす時間が多い人は体幹の筋肉が弱っているため、まずは座って重力に抵抗する力をつけてもらう。そうすると、いつの間にか食べられるようになっている患者さんが多いんですよ」

戸原氏は「こんなシンプルな指導にたどりつくまで、15年もかかりました」と笑う。歯科医のように見えない歯科医は、領域が広がっていく歯科医療の最前線を走っている。

赤司征大
1981年、岡山県生まれ。東北大学歯学部卒。UCLA MBA取得。歯科医師として診療に従事しながら、中小企業診断士として歯科医療法人の業務改善を行う。2015年、WHITECROSSを起業。
 
(撮影=大崎えりや、研壁秀俊 写真提供=株式会社ヨシダ)
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