口腔内スキャナー サクラパーク野本歯科●野本秀材

温かい型取り材の不快感から解放

「噛んだままじっとして」と歯科医が生温かいペースト状のものを口に流し込む。歯医者でおなじみの風景だ。これまでは詰め物をつくる際、歯の型取りに石膏を入れて模型を製作し、それを参考に歯科技工士が手作業で仕上げていた。その旧来の方法が口腔内スキャナーの登場によって、一変しようとしている。

スキャナーを口腔内に当てていくと、短時間で画像が完成する。そのデータは型取りに限らず、多くの治療で役に立つ。

前から存在したスキャナーが、日本で広まりだしたのはここ2年ほどのこと。いち早くスキャナーに注目し、4年前から研究論文を発表していたのが、歯周病専門医である野本秀材氏だ。

「まず口の中をスキャニングしたデータを技工場へ送り、材料から削り出す方法(ミリング)で、詰め物や被せ物などの技工物を製作します。従来の方法も改良を重ねましたが、50ミクロンほどの誤差が生じます。歯の世界ではそれよりも少ないほうが理想的で、スキャンでできる技工物の誤差は30ミクロン以下。より精緻に完成します」

スキャナーの利点は、正確さだけではない。患者が型取りの不快感から解放されることもメリットだ。型取り材は口に入れたら数分間は我慢しなければならない。特に高齢者はつらく、材料が柔らかいうちは、喉に流れると窒息のリスクもある。それがスキャナーなら2分程度口を開ければ、スキャン完了。途中で口を閉じても、スキャンを再開すれば、画像がつながるようにデータ処理してくれる。

「また型取り後の材料や模型など、医療廃棄物を出さないので環境に優しい。歯科技工士にはスキャニングデータを送信するだけでよく、物流も減ります。患者さんが感染症にかかっていたとき、型取りから感染源を拡散するリスクもありません」

スキャニングは、このほかにもいろいろ応用できる。たとえばインプラント治療では、施術前にCTで撮影して、顎の骨の状態や神経の位置を確認。それをスキャナーの画像と重ね合わせれば、サージカルガイド(ドリルを固定するため、歯に装着する安全装置)を設計・製作できる。また術後、口腔内をスキャンすることで、事前の計画とどれだけ誤差があるか、簡単に把握することも可能だ。野本氏のクリニックでは、スキャニングだけなら3000円で受診できる。

スキャンして作られた3D画像。データ解析によって、裏側からの形状も確認できる。

野本氏は、今後の展開をどう見るか。

「期待したいのは、3Dプリンターの活用です。金属や樹脂など、多くの材料に対応できる3Dプリンターは、材料を積層して作るので削り残りが出ず、溶かして再利用できます。まだ日本に数台しかありませんが、金属専用の3Dプリンターは、データを打ち込むと450ユニットの技工物を一気に加工する。将来的には精度もミリングの製法を凌ぐかもしれません」

便利になる一方、歯科技工士の仕事が失われるのでは……と不安にならないだろうか。しかし今、歯科技工士は低賃金と長時間労働によって、20~30代の離職率が約7割と言われ、人数が激減している。オフィスでパソコンを操り、製作は機械ということになれば、なり手が増え、歯科技工士不足問題の解消につながる可能性も高いのだ。