かつてTBSで人気を博したバラエティ番組『ガチンコ!』のなかでも特に人気だったコーナーが、不良少年たちをプロボクサーに育成する「ガチンコ・ファイトクラブ」です。

ここでは毎回のようにヤンキー少年同士が一触即発のケンカ状態になっていて、そのギリギリ感、ヤバさが視聴者を惹きつけていました。

僕が『ガチンコ!』のディレクターから聞いて「なるほどな」と思ったのが、「彼らがカメラの前で殴っちゃったら終わりなので、ケンカが殴るまで発展しないようにするのが一番むずかしい」という言葉でした。

バラエティプロデューサーの角田陽一郎さん

「なんじゃこりゃあ!」「てめえこの野郎!」と激しく威嚇しあい、CMを挟んでもまだ引っ張ってそれをやっている。これが延々続くから視聴者は目が離せなくなるわけですが、殴ってしまったらもう引っ張れません。それで終わりなのです。

だから、『ガチンコ!』のスタッフには(もしかしたらその不良少年たちにも)、ものすごい想像力があったのです。それ以上煽ったら、それ以上相手を罵倒したら、殴りかかってしまう。その想像力を働かせて、ギリギリで止める。だから番組は成立しました。

いじめによる自殺、先生に叱られることによる自殺も、「これ以上やったら自殺しちゃうかも」という想像力の欠如が招きます。

不運は想像力で避けられる

もっと大きく言えば、国家間の戦争もそうでしょう。外交上のハードネゴシエーションの範疇に収まらずにミサイルが発射されてしまうのは、ミサイルを打ち込まれた国の指導者が加減を知らなかったから。「これ以上相手国を追い込んだらミサイルを撃たれる」という想像力が足りないのです。逆に言えば、想像力によって戦争は根絶できるのかもしれません。

誰かを「からかう」「いじる」のもそうでしょう。

いくら場が盛り上がっていて、本人が「おいしい」と感じているようにはたから見えたとしても、限度を超えれば本人にとってそれは苦痛となり、職場や学校に来なくなってしまう。想像力がないから、加減がわからない。本当にいやがっているということを察知できないのです。

物事は杓子定規に「OK」と「NG」で白黒つけられるものではなく、その中間に「遊び」や「閾値(いきち)」のようなものが存在します。それがどれくらいのものなのかを測る想像力があれば、「一線を超えたことで降りかかってくる不運」は避けられるのです。

角田陽一郎(かくた・よういちろう)
バラエティプロデューサー
1970年、千葉県生まれ。東京大学文学部西洋史学科卒業。1994年、TBSテレビ入社。『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』『オトナの!』などの番組を担当。2016年にTBSテレビを退社し、独立。著書に『13の未来地図 フレームなき時代の羅針盤』(ぴあ)、『「好きなことだけやって生きていく」という提案』(アスコム)などがある。