濫発された大統領令・覚書が意味すること

さらに、トランプの行動予測を歴代大統領よりもわかりやすいものにしている要素がほかにもある。それは大統領就任直後から濫発された大統領令・覚書である。トランプ大統領は、大きな行動を起こす前には必ず大統領令・覚書で事前の調査を命じる傾向がある。

たとえば、18年になってから唐突に開始されたかのように見える中国などとの関税合戦についても同様だ。鉄鋼・アルミに関する関税は17年7月に安全保障と製造業のサプライチェーンに関する調査を命じる大統領令が出されており、それを受けて18年2月に商務省が鉄鋼・アルミの保護の必要性に関するレポートを提出している。つまり、鉄鋼・アルミへの関税は17年からの既定路線として準備されていたもので、2月以降はそれが実際に公表される時期だけの問題となっていたといえる。

また、中国との一連の不公正貿易や知的財産権等を巡る争いも17年に大統領令で調査と対抗策の立案をするよう指示しており、年明け早々に中国の世界貿易機関(WTO)加盟後の行動を批判する文書を米通商代表部(USTR)が公表し、ソーラーパネルや洗濯機への関税措置がジャブとして行われ始めていた。トランプは事前に堂々と弾込めしていた材料を選挙のタイミングに合わせて使ったにすぎないのだ。

国内政策に関してはトランプが任命した閣僚人は極めて特徴的な背景を持つ人々が多く、詳細は割愛するものの、政権の閣僚の経歴・実績を見ればエネルギー政策、環境政策、教育政策、社会保障政策の目指す方向は一目瞭然だ。

「トランプは予測不能」という評価は明らかな誤りで、公開情報をチェックするだけで多くのことが予測可能だ。これほど多くの足跡を残し、動機と行動がわかりやすい米国大統領は稀有な存在であろう。(文中敬称略)

(写真=時事通信フォト)
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