私も企業研修で様々な会議を見ていますが、これら大前提(会議の目的、会議の役割、意思決定の方法)をはっきりさせていない会議は意外に多いです。結果、参加者も自分が何をしていいかわからず受け身になる。言い換えれば、会議の方向性がわからずに安心感のない状態といえます。しかしそれでは永遠に後ろ向きな会議は改善されません。

優れたファシリテーターは上手に場やチームの安心感をつくります。先の思考フレームにしても事前に参加者と共有したり、「絶対に否定をしてはいけない」「この問いについて5分考えてみましょう」といった共通ルールを設けたりして、参加者が同じ方向を向くように仕切るのです。

ファシリテーターを務めるのは組織やチームを率いるリーダーであることがほとんどでしょう。そのリーダー像は、近年大きく変化したと私は感じます。従来はトップダウンのカリスマ型が主流でしたが、東日本大震災をきっかけに、つながりや安心感を提供できる共感型が求められる傾向にあります。

共感型リーダーの特徴は、部下と同じ目線まで下りて、腹を割って話し、自らの弱みをさらけ出せること。そしてたまにはアホなことも言える。常に威厳を保とうとするのは逆効果で「社長もアホなところがあるんだな」と周りに思ってもらうことで、距離感が縮み、自由に発言できる空気が組織に広がります。

お手本となるのがソフトバンクの孫正義さん。彼は「髪の毛が後退しているのではない。私が前進しているのである」と自分の髪の毛をネタにしてさらっと言ってのけた。ああいった自分を隠すことなくさらけ出せる懐の深さこそ経営者や中間管理職は学ばなければなりません。そうして組織内に安心感を醸成していくことが、チームの結束を強め、前向きな会議づくりにもつながるのです。

桐生 稔(きりゅう・みのる)
モチベーション&コミュニケーション代表
メンタル心理カウンセラー、上級心理カウンセラー。グッドウィルの支店長、エリアマネジャー、音楽スクールの事業責任者を経て2013年より現職。現在、全国20カ所でコミュニケーションスキルを上げるビジネススクールを運営。著書に『10秒でズバッと伝わる話し方』など。
(構成=宮本裕人 撮影=五十川 満)
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