「見立て」をよしとする美意識を共有する

勝部:少し逆説的ですが、商品をつくりこみすぎない、決めつけない、ということも大切かもしれません。企業というのは、ともすると、「こういうことも、ああいうことも求められるかもしれないから、とにかくはじめからぜんぶ押さえておこう」などと考えがちなのだけど、あまりあれこれ網羅しようとしはじめると、肝心の部分のつかい勝手がおろそかになったり、商品の目的が曖昧になってしまったりして、かえってつかう人にとっての広がりや工夫の可能性を狭めてしまったりしますから。

勝部健太郎+無印良品コミュニティデザインチーム (著)『新しい買い物 理想の社会を買い物でつくる。』(KADOKAWA)

川名:それは同感ですね。融通を利かせられるようにするためには、やっぱり余白が必要です。でも、余白をつくるとは、裏を返せば、肝心の部分を決めるということ。企業としてなにを大切にするのかという意志の部分が明確になっていなければ、じつは余白はつくりにくいんじゃないかと思います。抽象的な話で恐縮ですが……。

勝部:いや、そのとおりだとぼくも思いますよ。余白が自由につかえるのは、やっぱり最初に共感があるからです。先ほど例にあがっていたスタンドファイルボックスにしても、金井会長がおっしゃっていた「見立て」をよしとする美意識が共有されているから、書類入れに限定せずに、フライパン立てにしてみよう、ああしてみようと、いろんな工夫の仕方が考えられるのだと思います。

川名:いずれにしても、企業が「こういうものを大切にしませんか」「こういう生き方をしませんか」というメッセージを投げかけるのが先で、そことのかけ算によって、「買う人」が自分ならではの新しい価値を生みだしていく、という順ですね。

企業の価値観や思想を大々的に発信する時代ではない

勝部:問題は、その企業の価値観や思想の伝え方ですが、伝えるとなると、どうしても声高に叫ぶことを考えてしまいがちです。でも、いまの時代は、そういうやり方ではかえって伝わらないところがあります。

川名:おっしゃるとおり、腕力にものをいわせるようなメッセージの仕方は、かえって受けとめてもらえないようなところがありますよね。ソーシャルメディア全盛のいまは、「私たちは○○な社会づくりに貢献します」「××を尊重しています」みたいなことをあれこれ表現して広告を打ったり、メディアに載せたりしても、なかなか耳を傾けてもらえませんから。

もはや企業の価値観や思想を大々的に発信して、アピールするような時代ではないと思うんですよ。社長室とか、社内のどこかに書いて貼ってあったりするのはいいとは思いますが、外に向けては、むしろいわないで黙っているくらいのほうがいい。それより大切なのは行動です。意志をきちんと反映した行動をとること。企業の価値観や思想は、行動を見て感じてもらうものだと思いますね。

勝部:行動したというファクトが大切だということですね。

川名:そうです。そこのところは、ぼくら無印良品も近いスタンスをとっていると思います。コアの部分に明確な意志をもっているとは思うのですが、あえてそれを外に向けて大々的にアピールしたり、細かに説明したりはしていません。

それでも幸いにして、たくさんの人たちが活動を応援してくださっているのは、おっしゃるとおり、開発した商品がもつ意義やたたずまい、みなさんの意見を広く求める場を設ける取り組みといった行動を見て、意志を感じとってくださっているからだと思いますね。