「頑張ってくれたまえ。期待しているよ」はもちろん建前

厄介なのは、口では「自由に発言しなさい」と言って自由闊達な議論を促すふりをしながら、実際に批判や反対意見が出ると反撃して封じ込めようとすることだ。

このように相矛盾するメッセージを送って、部下を混乱させ、身動きできなくする上司はどこにでもいる。要は、言語レベルと非言語レベルのメッセージが180度異なるわけで、精神医学では「ダブルバインド」と呼ばれている。Aさんは、この上司がダブルバインドであることを知らず、上司の言葉を真に受けたからこそ、地雷を踏んでしまった。

ダブルバインドの上司に振り回されたのは、30代の営業社員の男性Bさんも同様である。直属の上司である40代の男性課長から、「頑張ってくれたまえ。君には期待しているよ」と励まされたので、頑張り、営業成績が社内でトップになった。課長も喜んでくれるはずと思ったのだが、予想に反して、機嫌が悪くなり、目も合わせてくれなくなったという。

▼精神医学用語でいう「ダブルバインド」の上司の嫉妬心

また、別の会社の20代の営業社員の男性Cさんも同様の経験をした。30代の男性係長から「頑張れ」と励まされていたのに、いざCさんが営業成績を伸ばして表彰されると、この係長はCさんを露骨に避けるようになったのだとか。

ここで取り上げた課長も係長も、「頑張れ」という言語メッセージを送りながら、それとは裏腹な態度を示している。こうしたダブルバインドの言動には、しばしば嫉妬がからんでいる。

というのも、後輩や部下に自分のポストを奪われるのではないかと危惧する会社員が少なくないからだ。その背景には、バブル崩壊後、多くの会社で年功序列が崩れ、成果主義が採用されるようになった影響があると考えられる。