私たちは仕事を選ぶとき、より高い給料・福利厚生の充実度・勤務時間の短さといった待遇を重視しがちです。なかには落合のように「仕事ではお金をもらえればいい。余分な仕事はしたくない」という割り切った考え方の人もたくさんいるでしょう。たしかに待遇は重要な要因の一つです。

誰でもできる仕事はITやAIで代替されていく

しかし、現代のビジネスパーソンにとって最大のリスクは、待遇の良しあしではありません。漫然と仕事をしていて成長することなく、結果的にビジネスパーソンとしての「自分の商品価値」が高まらないことが最大のリスクです。

それでも「自分は言われたことしかしない」と考えるのは、もちろんその人の選択です。しかし同時に、誰にでもできる仕事しかできなければ、当然ながらビジネスパーソンとしての評価は低くなります。そして将来的に、誰でもできる仕事はITやAIで代替されていくでしょう。

これからのビジネスパーソンには「自分という商品づくり」が必要です。前回取り上げたように、あなたの仕事には必ずその仕事の成果を必要とする相手がいます。あなたという商品づくりのために必要なのは、その相手(顧客)に対するあなたの価値を高めることにあります。

ここで役立つのが「バリュープロポジション」というマーケティング理論です。バリュープロポジションは「相手が求めていて、自分しか提供できない価値」です。「あなたという商品づくり」で必要なことは、あなたの仕事の相手が必要としていて、他の誰も提供できない価値を、相手に提供できることです。図で説明しましょう。

ポイントは「自分ができること」だけではダメだということです。相手が必要としていることが大前提となります。しかし相手が「自分ができること」のほかに選択肢を持っていれば、あなたの価値はまだじゅうぶんに高くありません。相手にとって「唯一の存在」になることではじめて、「あなた」という商品の価値は大きく高まるのです。

このバリュープロポジションを作る際に、大切なことが一つあります。相手の言いなりになってはバリュープロポジションは作れないということです。相手にとって「唯一の存在」になるために、相手の課題をサキドリして考え、解決策を作り出すことが必要です。落合がバカにしていた「意識高い系男」の山田は、まさにこの課題のサキドリと解決策への取り組みを30年間続けていました。「山田しかできないバリュープロポジション」を作り上げた結果、現在は本社の本部長に就任しています。

一方で、落合は30年間上司が言うことだけしかやってきませんでした。そして技術が進化したいまでは、言われたことをやるだけならば、その多くのことは彼よりITやAIのほうがより速く確実・正確にもできてしまいます。会社の言いなりではキャリアは築けません。会社の言いなりは一見リスクは低くみえるでしょう。しかし、実は長い目で見ると「自分という商品づくり」を怠ることにつながり、最もリスクが高い選択肢なのです。

ここまで前回、前々回と3回の連載を通じて、ビジネスパーソンの商品づくりについて考えてきました。より詳しくは、『「あなた」という商品を高く売る方法』(NHK出版新書)で、最新マーケティング理論をベースにして「自分という商品づくり」を考える方法論を紹介しています。ぜひ参考にしてください。

永井孝尚(ながい・たかひさ)
マーケティング戦略アドバイザー
1984年慶應義塾大学工学部卒業、日本IBM入社。マーケティング、人材育成を担当。2013年に退社し、マーケティングの本質を伝える講演や研修に従事。主な著書に、シリーズ60万部の『100円のコーラを1000円で売る方法』(KADOKAWA)、10万部の『これ、いったいどうやったら売れるんですか?』(SB新書)などがある。
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