ノイズキャンセリング性能の秘密

MDR-1000Xを語るうえでキーとなるテクノロジーは(1)ワイヤレス、(2)ノイズキャンセリング、(3)外音取り込みの3機能といえよう。

ノイズキャンセリングとは、簡単に言えば入ってきたノイズの音波に対して、逆位相の音波を流すことにより打ち消し合って無音化する技術だ。MDR-1000Xの場合、外部のマイクで1度ノイズを録音し、それを中のコンピューターで解析して反対の波を音楽に混ぜて流しているという。しかしそれだけなら他のメーカーも行っている。MDR-1000Xのノイズキャンセリング機能は、どこに優位性があるのだろうか。

「4つあります。1つは個人にあわせたチューニング機能『パーソナルNCオプティマイザー』を新たに加えたこと、2つめはノイズの種類を判断して自動的にフィルターを切り替える「AIノイズキャンセリング」の存在、3つめはノイズを2重にチェックして消す『デュアルノイズセンサーテクノロジー』によるノイズキャンセリング精度の向上、そしてノイズを消しながらハイレゾ相当の高音質が実現できる信号処理の技術と、音響調整の技術の存在です。

最高の音楽体験のためには、どこにいても最高の静寂を届けないといけない。世界最高性能のノイズキャンセリング性能を目指した開発を行うために、デザイン、素材、アルゴリズムといったソフトウェアの部分に至るまで、すべてを一から見直して再設計しました」(大庭氏)

ヘッドフォンの着け方には個々のユーザーによってクセ(ズレ)があり、他にもメガネをかけることで生じるスキマ、髪型(耳の上に髪がかぶっている状態で、その上からヘッドフォンを着ける人は意外と多い)などにより性能の低下が起こるという。そこでノイズキャンセリングボタンを長押しするだけで、そのときのスタイルに最適化できる機能が「パーソナルNCオプティマイザー」だ。

個人に合わせてノイズキャンセリング機能をチューニングする「パーソナルNCオプティマイザー」。髪型や眼鏡の有無などによる効きの差を調整する。
ノイズを二重にチェックして消す「デュアルセンサーテクノロジー」。打ち消しきらなかった雑音を内部のフィードバックマイクで拾い、さらに消す。

 

「デュアルノイズセンサーテクノロジー」とは、外側のマイクで拾ったノイズを打ち消し、打ち消しきらずに内側に入ったノイズを、さらに内側のマイクで拾い直して打ち消す機能のこと。

従来のソニー製ヘッドフォンにも、飛行機、バス、電車の中、オフィスなど、ノイズの種類を見分けて外環境にあわせてフィルターを変えて最適化する「AIノイズキャンセリング」機能があったが、さらに個人の装着スタイルによる最適化と、ノイズの漏れを細かく拾って徹底的に消す機能が加わったことで、最高のノイズキャンセリング機能を実現したというわけだ。

「いかに早くノイズをとらえて逆位相の波を作り出せるかというアルゴリズムの問題、マイクがどれくらい正確にノイズを拾えるかという問題、あとはそもそもハードウェアとしてどれだけ遮音できるかというところも大事です。一口にノイズキャンセリングといっても、1つのテクノロジーだけでなく、複合的な要素で成り立っているので、その組み合わせが(MDR-1000Xの)優位性につながっていると考えています」(大庭氏)

 外の音を取り込む「アンビエントサウンドモード」は何のため?

ノイズキャンセリング機能でわざわざ外部のノイズを消している一方で、MDR-1000Xには「アンビエントサウンドモード」という外部の音を取り込むモードも用意されている。ヘッドフォンを外さずに、必要に応じて外部の音を聞き取りやすくしようというのだ。

ノイズキャンセリングをオンにして音楽を聴いていると、没入しすぎて空港や駅のアナウンスを聞き逃す、といったことも起こりやすくなる。筆者も「呼び止めようと声をかけたが気づいてもらえなかった」と知人に言われたことがあった。外を歩いているときは、安全のためにも、確かに外部音が一切聞こえないと困るシーンは案外多い。

アンビエントサウンドモードには「ノーマル」と「ボイス」の2種類があり、左側のハウジングについているボタンを押すと切り替えられる。

左側のハウジングに付いているボタンを押すと、アンビエントサウンドモードを「ノーマルモード」→「ボイスモード」と切り替えられる。

「ノーマル」は周囲の音が聞こえないという不安を解消するために、つけていないときとほぼ同程度に外音を取り込むモードで、従来のソニー製ノイズキャンセリングヘッドフォンに搭載されていた「モニターモード」に近い。

「ボイス」は、ノイズは消しつつ、音声だけをマイクで拾うもの。最低限のノイズキャンセリングは行われているため、たとえば飛行機の機内ならゴーッというノイズは消しつつ、人の声は取り込んでいるという。「ノイズが少なくなっている分、特に飛行機の中などでは、ヘッドフォンをつけていないときよりも声が聞き取りやすくなるくらいです。飛行機で使うケースだと、ボイスモードはかなり役に立つと思います」(大庭氏)

たしかに電車の中でボイスモードにして音楽を聴いていると、ノイズが削られている分音楽はしっかり聞こえつつ、声だけが際立って聞こえてくるので、アナウンスを聞き逃しにくいと感じる。駅や空港などで歩きながら使うときには「ボイス」にしておくと安心だし、音楽を楽しむうえでも意外に快適だ。