「バーミキュラでご飯を炊くとおいしい」という口コミが出発点

バーミキュラの売りは高い密閉性。鋳物鉄の鍋とふたを0.01ミリの精度で加工することで実現している。ライスポットでは蒸気を逃がす仕掛けがあるが基本は同じだ。

ちょうどそのころ、SNSで「バーミキュラでご飯を炊くとおいしい」という評判が高まっていた。

「ほかの鋳物ホーロー鍋で炊くよりおいしいし、高級炊飯器よりおいしいと言ってもらえていました。バーミキュラとIHクッキングヒーターを組み合わせた、単なる自動調理器では面白味がない。でも、昔から火加減が難しいと言われる炊飯器までやれば評判になると考えました。それで、『世界一おいしく炊ける炊飯器を作る』というコンセプトで、ライスポットの開発をスタートしたのです」(土方副社長)

プロジェクトがスタートしたのは2013年半ばごろ。ライスポットの開発に当たっては、一度挫折を経験している。「すでに完成している鋳物ホーロー鍋(バーミキュラ)と、よくあるIHクッキングヒーターを組み合わせるだけでいい。協力してくれる調理家電メーカーを見つけ出し、自分たちが思い描いたIHクッキングヒーターを作ってもらえばいいのだから、さほど苦労せずできるだろう」当初そう考えていたためだ。そのときに土方副社長が作った資料は細かい「仕様書」で、コンセプトなどを含めた「企画書」ではなかったという。

しかし「世界一の炊飯器」、そして「世界最高の鍋」を作りたいという土方副社長の思いは、当初協力を得ていたメーカーにはうまく伝わらず、協力関係を解消したことで一度開発が頓挫してしまったのだ。

IHで5合以上炊くのは難しい

当初は自社に技術がないため、協力を得られる調理家電メーカーに、仕様書に合わせて設計も任せ、炊飯に最適化したIHヒーターを作ってもらおうと考えていた。自社ではデザインだけを担当するつもりだったという。

専用のIHヒーターが必要だったのには理由がある。一般的なIHクッキングヒーターに鍋を載せても、直火と同じようにご飯をおいしく炊けないことはすでに分かっていた。4合くらいまでは何とか炊けても、5合、6合になると炊きムラが生じてしまうのだ。IHクッキングヒーターは鍋底だけが温まる「平面加熱」のため、鍋の側面にも火が回り込むガス火の「立体加熱」に比べて熱の伝わり方が悪いためだった。そこで、立体加熱ができるIHクッキングヒーターを作ってもらえるメーカーを探し、2014年初頭に業務用調理器メーカーに協力を得られることになった。

ライスポットは、バーミキュラ同等の鋳物ホーロー鍋(上)を、専用のIHヒーター(下)にセットして使用する。

それから、底の部分から側面までIHコイルを巻き付けた原理試作を作り始めたが、ガスで炊いたようにおいしく炊けない。

「最初は簡単だと思ったんですが、IHで5合のご飯を炊くのは予想以上に大変でした」(土方副社長)

側面までIHヒーターにすると、熱がすべて均一になるため、ガスの直火のように「側面に火が回り込む」熱の入り方にならない。直火と同じようにするために、底はIHコイル、側面はアルミヒーターを組み合わせる形に行き着いた。

一般のIHヒーターの上に鍋を載せて炊くと熱が平面的にしか当たらない。そこでライスポットでは、IHヒーターで鍋を覆うようにし、底はIHコイル、側面はアルミヒーターを組み合わせて直火のような熱の当たり方を実現した。

これですべてがうまく行く。そう期待したが、再び壁にぶつかった。「同じようにやっているのに、ある日おいしく炊けなくなるときがありました。でもメーカーに聞いてみても『全然壊れていない』と言われたのです」(土方副社長)

どんな気温でも、どんな湿度でも、同じようにおいしくできなければならない。何しろ、「世界一おいしいご飯を炊こう」という思いで作っているからだ。しかしその思いは、協力メーカーには伝わらない。最終的にメーカーの方から「もうこれ以上付き合いきれない」と言われてしまう。

「自分でしっかりと炊飯器を勉強して、自社で構造設計もしないと、この問題は解決できないなと思いました。当初は2015年冬頃に発売しようとしていましたが、これ以上は無理だということで全部白紙に戻し、体制を整えてから自社で設計し直そう。そう考えたのが2015年夏のことでした」(土方副社長)