会社に貢献できるかはわからないが、世の中には貢献できる


ポケットコンピュータ「PD-200」(1985年)。住宅や車のローンの計算や、保険の支払い計算など、営業マンなどが業務に使うプログラムをあらかじめセットしておき、企業に一括して販売・納入することが多かったという。

その後も多くのライブラリを開発したが、それらを電卓に入れようとするとどうしても制約が多い。そもそも上述のように、日本ではあまり関数電卓は売れない。しかし多くの人に使ってもらいたい……。「それならインターネットで提供してみたらどうか?」それが、計算サイトのきっかけだった。電卓だとケタ数などどうしても表示の制限があるが、ブラウザ上ならそれもない。複雑な計算も分かりやすく提供できる。

2006年、試しに500個ほどライブラリを作り、ネットで公開。試験サービスを作ってみたところ、非常に反応がよかったという。そのとき「会社に貢献できるかできないかはわからないが、世の中には貢献できるという感触があった」(伊藤氏)のだ。

計算サイトは2006年に試験サービスを開始して以来、今では月に1000万弱くらいのページビューがある、知る人ぞ知るサイトに成長した。いや、知る人ぞ知るサイトだったのだが、何かの計算をしたいと思って検索すると上位に現れるため、カシオの計算サイトとは知らずにやってくる人がどんどん増えてきたのである。

生活から理数系まで。計算なら何でもござれ

計算サイトとはどんなものか。

計算したいテーマを選び、空欄に数値を入れるとそれを計算して答えを出してくれるところだ。大きく分けて、理数系と生活系の2パターンが用意されている。

高精度計算サイトで用意されている計算のライブラリは1000種類以上。勉強に役立つ理数系の計算も、生活に役立つちょっとした計算も数多くそろえている。会員登録すれば、自分で作った計算式を登録することもできる。PCからもスマートフォンからも利用できるほか英語版も用意。

理数系計算は関数電卓用のライブラリを開発していた伊藤氏が得意とするところ。もともと伊藤氏は物理系の出身で、昔、プログラムを作るのに苦労した経験があったため、特に充実させたと語る。面積や体積から三角関数や対数・指数、方程式といった数学的な計算。図形系には強く、斜めにカットした円柱の体積まで求めることができる。画像や数式も表示されるので分かりやすくてよい。ベッセル関数やルジャンドル関数といった、専門的に取り扱っている人でないと想像も付かないような、特殊な関数の計算もある。理数系の学生やエンジニアなら役立つはずだ。

これに対し、職業年齢を問わず多くの人に関係するのが生活系だ。お金の計算や暦の計算など、生活の中であると便利なものから、各種単位換算、健康にまつわるものまで。趣味の計算としては、例えば江戸時代と今の単位換算がある。時代小説を読みながら使うと、江戸時代のお金や距離の感覚が身近に感じられていいという声もあるそうだ。