不登校になった直後、母が息子にかけた言葉

『プレジデントFamily2017春号』より(市来朋久=写真)。文章はすべてパソコンやiPadで書いている。パソコンを使い始めたのは3歳。疑問が湧いてきたときも、まずはインターネットで検索。「グーグル先生にいろいろ教えてもらっています」(弥生さん)

どのような子育てをすれば、芭旺くんのように才能の芽を伸ばしてやれるのか。母の弥生さんに聞いてみた。

「常に言ってきたのは、感情を言葉にする大切さです。『私たちは超能力者じゃないんだから、わかってもらえると思わないで伝え合おうね』って。日常のささいなことでも、お互いに『ありがとう』と言い合っています」

その言葉のやりとりで、弥生さんが心がけたのは、「生まれてきてくれありがとう」という気持ちを怠らずに伝えることだ。

「親が子供にしてやれるのは、そのままの存在を認めて、そのままでいいと伝えることしかないと思うんです。それがきちんと伝われば、子供は自信を持ち、自分という存在を認められるようになる。その後は子供の判断に任せればいいと思っています。むしろ、子供の邪魔をしないのが親の役割だと思いますね」

もし、子供が世の中の常識や親の価値観から外れた選択をしても、子供を信じてそっくりそのまま受け入れる。人と違うことを恐れるのでなく、人と違うことを楽しみ、尊重する。それは誰に教えられたわけでもなく、弥生さん自身が当たり前に身につけていた感覚なのだという。

そもそもこの本を書いたとき、芭旺くんはいわゆる不登校児だった。

両親の離婚によって、福岡から東京の小学校に転校。前の学校と違い、そこは居心地のいい場所ではなかった。芭旺くん曰く、「自分が空気を読めないせいで」友達からいじめを受け、子供は大人の言うことをきいて当たり前と強制する先生への不信感も募った。そして、小3の2学期を前に「学校に行きたくない」と弥生さんに伝えたのである。

子供が学校を拒絶したら、大抵の親はうろたえて、学校に行かせる方策を考えるだろう。しかし、弥生さんの行動は違った。

「まず、伝えたのは、『よく言えたね』という言葉でした。我慢して学校に行っていることはわかっていたので、自分の思いを言えたことを褒めてあげたいと思ったんです。そして、その気持ちを受け入れて、すぐに自宅学習にできないかと学校へ相談に行きました。不登校というとマイナスイメージがありますが、学校に行かないのは選択肢のひとつ。学校では学べないことはたくさんあると思います」

自宅学習に切り替えてから、芭旺くんは「好きな人から学ぶ」という方式をとるようになった。先生になったのは、無数の本。幼児期から辞書を持ってきて「読んで」とせがむ子だった彼は、科学漫画のサバイバルシリーズやコロコロコミックに熱中する一方で、『嫌われる勇気』『神さまとのおしゃべり』『夢をかなえるゾウ』といった大人向けの本も読みこなすまでになっていた。

取材時に、今、一番のお気に入りの本として持ってきたのは、『藤原先生、これからの働き方について教えてください』だった。この本にある著者の藤原和博さん(教育改革実践家・杉並区立和田中学校元校長)の「レアカードになれ」(自分の「希少性」を高めて、世の中で「レアな存在」になること)という言葉が、自分の考えていたことそのものだったのだとか。