小池百合子東京都知事が誕生して以来、築地市場の豊洲移転問題や、東京五輪の施設問題が注目される中、「都議会のドン」と呼ばれる内田茂氏が脚光を浴びています。

自らは表舞台に立たず、陰の権力者として影響力を行使する。そんな「ドン」は政治の世界に限らず、いろいろな組織に存在しています。一般の企業でも、名目上は社長がトップのはずなのに、実質的な決定権はほかの古参の役員が握っており、話を通すにはその役員を納得させることが第一だ、というケースは珍しいものではありません。

では、どうしてドンが表向きのリーダーよりも権力を握るのでしょうか。ここから、ドンの持つ力について見ていきましょう。社会心理学では、組織に与える影響力を「勢力(power)」と呼びます。この勢力は、「報酬勢力」「強制勢力」「正当勢力」「専門勢力」「準拠勢力」「情報勢力」の6つに分けて考えることができます。この勢力が大きいほど権力を握りやすいといえるのですが、それぞれについて見ていくと、ドンが優位に立つことがわかるのです。

何度も「貸し」をつくり、「通帳」に貯める

まず、報酬勢力はお金を与えたり、気持ちに寄り添ったりすることを指します。報酬を決めるのは表向きのトップだと思うかもしれませんが、長い付き合いの中、仕事で引き立てたり、ご馳走したり、「貸し」をつくれるのは、公的な立場ゆえのしがらみや交代の可能性があるトップよりも、陰で影響力を持つドンのほうです。ドンの立場からすると、部下や関係者に何度も「貸し」をつくるわけです。それは預金のようにドンの「通帳」に貯められていきます。利益や恩義が積み立てられる。それゆえに、たとえ名目上のトップが改革を唱えドンを排除しようとしても、周囲はドンに逆らうことを選ばず、トップが抵抗を受けるのです。

強制勢力とは、処罰を与えるなどして行動を強制する力。正当勢力とは、力を使う役目に正当性があるということを意味します。これらは、公式にトップの職にいる人のほうが持っています。