「地位財」で身を滅ぼす高収入者とは?

富裕層は少なくとも19世紀の昔から、誇示的消費を行ってきましたし、個人も周囲の人間と張り合おうとすることで財産を消費してきました。昔も今も、人間がやることは変わらないわけです。

こうした事実から学ぶべきことは、もし本気で資産形成をしようとするなら、「地位財」がらみの浪費をしてしまう愚は避けなければならない、ということでしょう。地位財への誇示的消費がこれからの時代の財産形成には明らかに阻害要因となるのです。

さて、問題はこの地位財という存在です。

その存在の「概念」について簡単に頭に入れておきましょう。ウォーウィック大学教授のフレッド・ハーシュは1976年の『成長の社会的限界』の中でpositional goodsという概念を述べています。

positional goodsとは何か?

これは、供給に限りがあり社会的希少性によって少数の人しか手に入れられないため、その時点で相対的に所得が高い者のみが入手できる財のことです。仮に、中産階級がpositional goodsを手に入れることができる所得水準まで所得が上昇して、それを入手できるようになると、その性質は変容してpositional goodsではなくなってしまいます。

例えば、こういうことです。

ある中産階級が懸命に働き、富裕層を模倣してベンツのSクラスを所有できたころには、「その段階での」富裕層はより上クラスのマイバッハなりベントレーなりアストンマーチンなりを所有しているため、ベンツのSの意味が変わってしまっている、ということです。

一般的に、衣食住に必要な物財が社会全体に行き渡ると、余剰の所得は、供給が固定(限定)されたpositional goodsに向かうことからpositional goodsの価格は急激につりあがります。結局のところ、社会・経済状況がどんな段階であってもその時点で相対的に所得が高い人しかpositional goodsを手に入れることができない、というのが専門家の見立てです。

では、現在の日本はどうなのか。

大まかに言えば衣食住の需要は充足されているように見えます。よって必然的に余剰の所得(収入)はpositional goodsに向かい、吸い取られてしまうことになります。となると、先ほども言ったように「その段階での」富裕層以外の人間はどんなに働いても豊かさの実感というものを味わうことができないことになります。