さらに山田先生は糖質摂取をゼロにしないもう一つの理由を挙げる。

「1日の全糖質摂取量が50g以下になると、体内のエネルギーのバランスをとるために肝臓でケトン体という物質が生成されます。糖質をゼロに近づけるような糖質制限食では、このケトン体を生成することをよしとし、余剰分のケトン体が尿などで体外に排出されるときにエネルギーも一緒に排出されるため、より減量ができると考えています。しかし現在では、ケトン体が体に及ぼす影響の是非については結論が出ていません。その論議が学会で進行中です。ケトン体が急激に増加してショック状態になったという症例報告もありますので、私は医師の立場として、現状は糖質を少なくしすぎてケトン体が生成されるのは避けたほうが無難だと考えています。ロカボはこの点、1日の糖質摂取量の下限が70gなので安心していただいて大丈夫なのです」

ロカボは安全か?危険視する意見があるのはなぜか?

さて、ケトン体の安全性の話が出たところで、ロカボの安全性についてさらに説明してもらおう。ネットなど一部で糖質制限食を危険視する向きもあるのが気になるところ。この点を山田先生はどのように考えているのだろうか?

「この話題を論じる前に、糖質制限食に対して批判的な意見は、大半が糖質を厳しく制限した食事に対してのもので、緩やかな糖質制限食のロカボはそれらとは一線を画しています。これを忘れないでください。その上で糖質制限食全体の安全性に関して解説しましょう」

はじめに「NIPPON DATA80」というデータから見ていく。厚生労働省が1980年に行った循環器疾患に関する調査を、その後29年間にわたって追跡した内容をまとめたもので、これほど壮大な日本人についての調査データは他に見当たらない(全国300か所、30歳以上の男女9200人から収集)。

これによると血糖値に関しては、もっとも糖質の摂取が少なかった群(緩やかな糖質制限のレベルに相当)から、もっとも多く糖質を摂取していた群まで10グループに分けて比較。もっとも摂取が少ないグループは、もっとも多いグループに対して、心血管死(動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞など)のリスクが74%、総死亡のリスクは84%で、糖質量を控えたほうがよいという結果が出ている。

ちなみに、女性は同心血管死のリスクが同59%とめざましく低く、男性はそれほど大差がない。これらの平均として上記の数値が出ている。また、上海にも11万人以上が参加した同様のデータがあり、やはり糖質をたくさん摂取したほうが心血管死や総死亡のリスクが高くなることを示している。

「このデータは、糖質制限食は危険どころか、死亡率を下げることができる有意義な食事法だということを示した貴重なエビデンスとして知られています。それまで論じられてきた糖質制限食の可否を『可』と決定づけたのです。世界の医学界では、緩やかな糖質制限食に関する批判的な意見はもはやなく、糖質摂取ゼロの極端な糖質制限食が是非についての議論の対象になっているのが現状です。ちなみに糖質ゼロの厳しい制限食に関しては、長期に続けた場合を検証したエビデンスがありません。この点も私がロカボを安全な糖質制限食としてすすめる理由です」(山田先生)