経済界は現状の賃金体系を温存したい

だが、日本での最大の課題は「総合職」という名の職能給の正社員と非正社員の格差の是正だ。

総合職はジョブローテーションによって工場など様々な職場の経験を積ませるとともに、特別な研修などの教育訓練によって将来の幹部候補に養成していくというタテマエになっている。一時的(2~3年)に非正社員と同じ仕事をしていても、新卒後の給与体系も非正社員と違うし、給与も高い。

じつはヨーロッパでもこれと類似したキャリアコース(職業能力向上のための特殊なキャリアコースでの経験の蓄積)を合理的理由の要素と見なす判例もある。

とはいえ、それほど判例が多いわけではなく、実際にヨーロッパでは大卒であっても幹部候補のエリートは少ない。だが、経団連は先の提言で「将来的な仕事・役割・貢献度に対する発揮期待(人材活用の仕組み)」による処遇の違いも合理的要素と見なすことを求めている節もある。

経済界としては様々な経験を積ませてゼネラリストに育成する職能的な働き方と賃金体系を温存したいという思いがあるのだろう。

だが、「幹部候補の総合職」と言っても幹部になれるのはその中のわずかの社員であり、課長にすらなれない人が増えているのが実態だ。

現時点でガイドラインがどういうものになるのかわからないが、もし正社員(ホワイトカラー)の大多数を占める総合職の賃金と非正社員の格差の違いを、合理的要素であると認めてしまえば、正社員の給与体系は今のままとなり、結果として非正社員との賃金格差の是正にはつながらない可能性もある。

もうひとつの懸念は正社員と非正社員が同じ職務内容と見なされないために完全に正社員と非正社員の職務を分離してしまう方法をとるかもしれない、ということだ。

実際に飲食チェーンの中には店長を含めて店舗の従業員をパートで構成し、正社員はスーパーバイザーや複数店舗の統括責任者として職務を分離しているところもある。

そうなれば職務・役割が違うので比較の対象者が存在しなくなり、賃金の違いは合理的だと見なされる可能性もある。

年内にまとめられるガイドラインの中身によっては、安倍政権の正社員と非正社員の格差是正のあり方が大きく問われることになるだろう。

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