3つの要素のうち、応用範囲が広い分最も面倒で時間がかかるのが「価値観」の共有です。それだけに、最も手を抜きやすいし、油断しやすい。しかし、面倒くさがってはいけません。それは、親が手塩にかけて育てなければ、高いおもちゃを買い与えても親の愛は子どもに伝わらないのと同じことです。

ベンチャーなどを見ていると、創業当初は、少ない人数で苦労を共にして自然と「価値観」を共有できます。しかし、会社が成長して安定してくると、経営者の目が外に向き、いつの間にか社内の「価値観」の共有を当然とみなし、実際には組織がボロボロになってしまうというパターンが少なくない。この辺りは百も承知であったはずのスズキの鈴木修会長でも、同じ轍を踏んだことは記憶されていいでしょう。

会社は生き物であり、成長するほど新しい社員が入ってきます。経営者は常に社員と向き合い、会社の「価値観」について愚直に共有していかなければいけないのです。いくつかの企業では、「価値観」の共有を強める動きが起きています。運動会を復活させたり、社員寮や研修施設などを整備したりするのは、その表れといえます。

三菱自動車の不正が起きた真因とは

自動車メーカーに限って言えば、「価値観」の共有は、さほど難しいことではないと思います。コンサルタント時代に一緒に仕事をしたことがありますが、そのときに感じたのは、皆、クルマが本当に好きだということでした。

ですから、三菱自動車の場合も00年代の二度にわたるリコール隠しで経営危機に陥ったとき、日産のゴーン改革のように、経営者と社員の思いをストレートに共有すればよかったのです。しかし、三菱自動車の場合は、「三菱グループの一員としてああしろ、こうしろ」など、共有しなければならない価値観が多すぎて、結果として混乱してしまったのではないかと見ています。

本当に共有すべき「価値観」は、それほど多くないはずです。親がいろいろ言いすぎて、子どもをダメにしてしまうのと同様に、本当に大切なことがきちんと根づかなければ、どこかのタイミングで綻びが出るのは当然です。

多くの日本企業にとって、この問題は他人事ではありません。自社にとって重要な「価値観」を見極め、社員と共有するための努力を惜しまないことが必要です。「面倒」を言い訳にしている(それが社内でまかり通る)限り、会社の持続的成長はありません。

(構成=増田忠英 写真=時事通信)
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