民主党でも共和党でもない「第3の選択肢」

では、現在、アメリカで何が起こっているのか。

誰もがアメリカンドリームを手にする機会があったはずのアメリカが、国家としての力を失い、超富裕層だけが潤う「株式会社アメリカ」と化して「今だけカネだけ自分だけ」という強欲資本主義の価値観が蔓延している。銀行や多国籍企業だけが儲かり、その儲けは全部タックスヘイブンに行ってしまう。国内インフラは疲弊し、社会保障はカットされ、教育も医療も上がる中で中間層はますます増税される。グローバル企業にとっての公共事業と言われる戦争は終わる気配を見せず、サブプライムローンに続く車のローンは破綻寸前のカウントダウン真っ最中だ。

共和党のブッシュ政権後、民主党のオバマ政権に望みをかけたがチェンジは起きず、失望した国民の多くが徐々に、アメリカの抱える真の病理が個々の政策ではなく、それを束ね飲み込んでいく「政治とカネ」という構造そのものにあることに気づき始めているのだ。

1%から巨額の資金でバックアップされているヒラリーが大統領になれば、これまでと同じ方向性が想定されることは明白だ。クリントン夫妻の財団が国内外の軍需産業から多額の資金援助を受けていたという疑惑を受けて、白人の中流以下の女性の多くは反ヒラリーの姿勢をとっている。「もう戦争はごめんだ。そろそろ国内を立て直してほしい」という女性の声が、初の女性大統領としてのヒラリーではなくトランプ候補を後押しする要因になっているのはある種の皮肉と言えるだろう。

また、TPPについても、かつてNAFTAで痛い目にあったアメリカの労働者の多くははっきりと反対している。NAFTAやTPPのような自由貿易条約にはっきりと反対を訴えるトランプ氏が労働者人口の多い中西部の激戦州の支持を得れば勝利する可能性が高いのはそのためだ。アメリカ政府を代理人とする巨大資本や金融業界と、製造業を中心としたアメリカ国民一般中流層の立場が対極にある現実を見誤ってはならない。そしてそれは欧州でCETAやTTIPに反対する国民の声と重なり、国境を越えた大きなうねりとなっているのだ。

今世界で起きている新しい流れとその動きを見てみると、2016年のアメリカ大統領選は、各国のルールや多様性を撤廃し、最も効率のよい世界統一市場を目指す1%層と、国家や共同体や多様性というものの存在意義を立て直そうとする市民とのせめぎ合いにおける、一つの象徴に他ならないことがわかるだろう。

ここにきて第3の選択肢がアメリカ国内でささやかれている。11月の選挙直前にアメリカ国内である種の非常事態が発生し、オバマ大統領が続投するという「プランC」だ。

アメリカの大統領は非常事態には自身に巨大な権限を付与する大統領令を行使することができる。リーマンショックを超えるような金融危機や、当局が制圧に乗り出さねばならないほど大規模なテロや暴動が起きれば、大統領選は吹き飛んでしまう。

最近、アメリカで警察官が黒人を射殺する事件が増えている。

日本に入ってくる報道では「人種問題の切り口」でしか取り上げていないが、果たして本当にそうだろうか。現場の声や資金の流れを注意深く見てみると、別の構図が見えてくる。

国防総省が戦場で使う武器を各自治体に払い下げておりそれらが市民に対して使用されている事実や、大統領が米軍の国内配置のみならず国連軍の本土配置までも可能にした今、当局は国内で何かが起こることを、十分想定しているのだろう。

さらに別方面からの緊急事態も警戒されている。ドイツ銀行や債券市場の危機、9.11の遺族がサウジアラビア政府に損害賠償を行える「サウジ法」が米国議会で成立した事を受けたサウジ政府が米国債売却や同盟関係見直しに言及している事実など、周辺国との火種も少なくない。

どの国でもそうだが、深刻な事態が水面下で起きている時ほど情報は統制されてゆく。それほど今のアメリカの状況は切羽詰まっているのだ。