「負けて強く」なれるか

原沢を指導してきた金野潤・日大男子監督によると、「負けて強くなるタイプ」という。そういう意味では、この敗戦は良薬にもなりうる。猛練習が身上の原沢だもの、さらに練習は熾烈を極めることになるだろう。重圧をはねのける自信をつけるためには、やはりそれが一番である。

『打倒!リネール』を考えると、まずは組み手がカギをにぎる。懐に飛び込んで、いかに間合いを詰め、リネールに距離をつくらせないようにするか。そのためには、パワーやスピード、技術がもっと必要となる。原沢得意の内またを警戒してくるだろうから、足技などを磨き、柔道の幅を広げたいところだ。原沢は思案する。

「(リネールは)他の選手より、総合的に頭ひとつ、ふたつ抜けていますし、何より、試合運びがうまい。奇襲技じゃないですけど、相手が予想しないようなことをやっていかないと勝てない。何かひとつ、ずば抜けたものがないといけないと思っています」

最大の利点は、過去の両者の対戦がゼロだということかもしれない。原沢には若さと伸びシロがある。未知の可能性がある。あと3カ月余。この「敗戦」を糧とし、若き柔道家のエネルギーのすべてを、リオ五輪の金メダルにささげるつもりだ。

松瀬 学(まつせ・まなぶ)●ノンフィクションライター。1960年、長崎県生まれ。早稲田大学ではラグビー部に所属。83年、同大卒業後、共同通信社に入社。運動部記者として、プロ野球、大相撲、オリンピックなどの取材を担当。96年から4年間はニューヨーク勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。日本文藝家協会会員。著書に『汚れた金メダル』(文藝春秋)、『なぜ東京五輪招致は成功したのか?』(扶桑社新書)、『一流コーチのコトバ』(プレジデント社)など多数。2015年4月より、早稲田大学大学院修士課程に在学中。
【関連記事】
コロンビア初の柔道オリンピック金メダル狙う! 地球の裏側の“柔道一直線”指導者
日本人ゴルファーが五輪で勝つ法
7人制ラグビー・リオ五輪日本代表が夢見る「セブンズ文化」とは
したたかな欧米人「日本柔道はなぜ勝てないか」
「全力の全で。すべてをまっとうする」-穴井隆将