「イオンと合併してもかまわない」

もちろん、井阪社長の退任案について、商品の撤去と生身の人間である社長の退任とは次元が違うという見方もあるだろう。ただ、鈴木氏のもう1つの一貫した考え方は、常に「顧客の立場で」考え、顧客を起点にして発想することにある。そのため、「会社の都合により、顧客の都合が損なわれるようであれば、会社の都合は否定されなければならない」という信念を持つ。

「5期連続最高益を実現したのだから、社長を辞めさせるべきではない」という考え方は、あくまでも「会社の都合」である。顧客が求めているのは、セブン-イレブンの店頭に並ぶより良い商品であって、「5期連続最高益を達成した社長」ではない。もし、「会社の都合」によって、セブン-イレブンの店舗の質を顧客がより満足するレベルに高めていくことが難しくなると判断されれば、「会社の都合」は否定されなければならない。そう考えるのが鈴木氏だ。

以前、鈴木氏は「もしお客様にとってそれが本当に好ましいのであれば、イオンさんと合併してもかまわないんだ」と幹部たちに話したことすらあった。もちろんそんな合併は現実にはあり得ないが、それほど売り手の都合より、顧客の視点でものごとを考えることが大切だと考えていたということだ。

なぜ、セブン-イレブンの1店舗あたりの平均販売額が66万円と、他チェーンに10万円以上の差をつけるかといえば、未来を起点に発想し、顧客を起点に発想して変化に対応することを、40年間にわたって徹底して実行してきたからだ。セブン-イレブンの強みは、その“徹底力”にある。

鈴木氏と次男の鈴木康弘氏(セブン&アイ・ホールディングスの取締役CIO=最高情報責任者)の関係をめぐっては、「世襲」云々も取りざたされた。もちろん鈴木氏は記者会見で言下に否定したが、鈴木氏の発想の仕方からしても、世襲などという「自分の都合」を優先するはずはない。それは、本人の生き方にかかわる問題だ。