「変態」から「普通」で話題をさらう

近畿大学では、海外の提携大学を2年間で100校増やし、4月からスタートする国際学部では「全員が1年間の海外留学」を経験することになる。そんな諸事情から、4月から英語の名前を「kinki」(kinkyの意味は「変態」)から、「Kindai University」(近大)に変えることにした。話題づくりは、やや自虐ネタの「変態大学から普通の大学へ」だ。

世耕石弘(せこう・いしひろ)
近畿大学広報部長。1969年、大阪府生まれ。大学卒業後近畿日本鉄道でのホテル事業や秘書業務、広報課長などを経て、2007年近畿大学に転ずる。最初のミッションは入学センター・入試広報課長として志願者数を増やすことであった。研究成果など近畿大学の実力を、広報の力で世に知らしめることに心血を注ぐ。2015年4月より現職。
近畿大学
http://www.kindai.ac.jp/

「これは必殺ネタやと考えました」と世耕さんは語る。

“変態を意味するKinky”から“Kindai”に変えると言えば、テレビ番組やYahoo! などのネットニュースで取り上げられると考えたため、国際学部新設と一緒に書いてもらえるように仕掛けた。

「おかげさまでYahoo! のニューストップになり、話題は広がりました」

世耕さんたち近大広報部のメンバーは、近畿大学や関連の名称がネットでとりあげられるとアラートが鳴る設定にしている。すぐに反応してSNSで対応するためだ。話題になった瞬間にさらに拡散させることは、話題をより広範に広げる効果が高いからだという。

話題をつくり、誰かに話したくなるネタを提供すること。これがマスメディアとネットを通じて話題が広がる今の時代にハマる宣伝方式であり、数十億かけた宣伝広告にも勝るとも劣らない結果を生むのである。

そして、さらなるメディア対策も万全を期した。

メディアは常にネタを探している。何か事故や事件が起きたときには、コメントできる人物を早急に探し出さなければならない。世耕さんは近鉄広報に勤務していた時代に、夜中でも会社に戻ってマスコミ対応に追われる経験をしていた。

「記者さんの苦労をわかっていましたので、ニーズがあるやろうなと思い、冊子とウェブで『近大コメンテーターガイド』(近畿大学教員名鑑)をつくりました。胃がんはこの先生、犯罪心理なら……と、あらゆる側面から専門家が見つかります」

たとえば事故、事件、病気などあらゆる想定場面から、ジャンル、所属、教員の五十音、それからフリーキーワードで逆引きをして、大学教員の名前が調べられる。これも勘があたった。たとえば著名人が亡くなったり病気を発表した際、その病気の詳細についてテレビや新聞でコメントするなど、あらゆる場面で“近畿大学の専門家”としてコメンテーターを送り出した。

逆引き辞典には、先生方の写真も載っている。もちろんメディア対策だ。かつてケネディがテレビ映えをして、ニクソンに勝利したエピソードは有名だが、やはりキレイな女性などは好まれるという。“見栄えがいい”とはわかりやすい側面ながら、わかりやすいことは人を動かす大きな一手であることもまた事実。こうしたアピール意識は、大学案内にも表れている。