【弘兼】山海さんは、科学者、上場企業社長、大学教授という3つの顔をもっている。とてもユニークです。

【山海】サイバーダインの目的は「社会変革・産業変革」を起こすことです。単にテクノロジーをつくり出すだけでなく、またそれを製品として出荷して終わりということでもありません。多くの人に使われて、社会の経済サイクルに入ること。テクノロジーを社会に実装していくこと。そのためには組織が必要なため、上場企業という形をとりました。

【弘兼】一般企業との「産学協同」は考えなかったんですか?

【山海】大企業に優秀な研究者を派遣してもらったこともあります。「協力をお願いします」と頼むと、社長さんたちはみんな大喜びで人を出してくれました。ところが彼らに「いつ事業化できますか」と聞くと、ぽかんという顔をする。「私たちは研究所から来ているので事業化についてはわかりません」というのです。

【弘兼】山海さんは社会への実装を求めているのに、研究しかできない人間が送られてきたわけですね。

【山海】はい。せっかく企業から来られたのに事業化をしないのであれば、来ていただく意味がありませんね。ちょうどその頃、筑波大学からは「大学発ベンチャー」への期待も寄せられていたので、本格的に起業することにしたんです。

【弘兼】資金はどうしたんですか?

【山海】まずは自分の貯金を使い、その後は銀行からお金を借りました。

【弘兼】銀行から資金調達をするには担保が必要ですよね。

【山海】私が退職するまでに支払われる予定の大学からの給料が担保になりました。給料を差し押さえられても、ご飯ぐらいは食べさせてもらえるだろうと思って(笑)。そして2014年3月、東京証券取引所のマザーズ市場に上場しました。ただし、理念追求型の組織にするために、議決権種類株式を用いた上場です。

【弘兼】普通株と種類株の株主総会での議決権が1対10という日本では初めての株式上場の方式ですね。

【山海】立ちあがったばかりの柔らかい時期に、「来期にはこれだけの収益を上げてくれ」「こちらの事業を先にやってくれ」などといわれると、せっかくのチャレンジができなくなります。米国ではグーグルやフェイスブックも同じ形で上場しています。日本では2008年に法律が改正されました。

(1)つくば市のモールにあるサイバーダインスタジオ。(2)アニメ作品の立体模型も展示されている。(3)デモ用のHALが並べられている。(4)『鉄腕アトム』の貴重なブリキ模型もあった。(5)腕につけたパッドで神経信号を読み取る。(6)重心なども測定する。(7)全身用の試作機もある。