さらに、本から教えられたことの全ては実行できないので、自分が「能力のない人間」と思いこむ読者が増えてきた。真面目なビジネスパーソンほど、「読み方が悪いのか、意志が弱いのか」と悩むのだ。理想と現実のギャップに苦しみ、心の奥で劣等感が増していった。

そもそもビジネス書を読んだだけで、自分を変えられるわけではない。ましてや、自分に合わない方法をいくら指導されても身に付かない。こうした現実に気付いた人は、やがてマッチョなビジネス書から離れていった。

従来のビジネス書が重荷になった読者を敏感に察知した著者は、やり方を変えた。心理学やスピリチュアルな精神主義を基とする啓発書が台頭したのである。こうした流れは、2011年に発生した東日本大震災(いわゆる「3.11」)で加速したように思える。

それ以前の科学者は、「予測と制御」という合い言葉の下で、科学の力を駆使して豊かな社会を築き上げた、という自負があった。ところが、未曾有の災害はその信念を打ち砕き、科学技術に対する信頼も損なわれた。

これと同様の事件が2014年の御嶽山噴火でも起きた。六十余名の犠牲者を出した水蒸気噴火を予知できなかったことで、私を含めて火山学者全員が科学の限界を突き付けられた。いずれの自然現象でも「予測と制御」がほとんど機能せず、我々は「想定外」の世界に放り込まれた。

私の専門から見ると、「3.11」以後の日本列島は、想定外の自然災害が頻発する「大地変動の時代」に入ったと判断される。その結果、今後の数十年のあいだ、地震や噴火が突発的に起きると予想されるのだ。

たとえば、首都直下地震はいつ起きても不思議ではない状況にあり、東日本大震災より一桁大きい被害をもたらす南海トラフ巨大地震(西日本大震災)が約20年後に控えている(拙著『西日本大震災に備えよ』PHP新書を参照)(※2)。 すなわち、「想定外」は政治経済だけでなく、日本列島の地盤そのものの状態なのだ。

さて、想定外の変動が当たり前となった中では、既存のシステムで効率を追求する合理主義が、次第に効力を失ってきた。つまり、予測と制御に基づいた従来の仕事術やキャリア論では役に立たない場面が続出しつつある。では、どうしたらよいのだろうか。