破綻後、社員同士のケンカが急増した

【広報】破綻前のJAL社員はバラバラでした。意識があっちを向いたりこっちを向いたり。でも破綻直後、その意識が「一体」になった。ただ、これは「私たちは今後どうなるのだろう」という大きな不安感ゆえに寄り添っただけ。その後、本物の一体感を醸成できたのは、これまでの皆さんのお話にも出てきたように、稲盛さんの指導やフィロソフィの存在の賜物ですね。

【総務】思うに、フィロソフィはわれわれの“共通言語”なんですよね。それまで各部門の独特の文化、プライドもあって縦割りの壁のようなものがあったけれど、それが少しずつ低くなった。

【機長】私たちパイロットは専門家集団で、破綻しても当事者意識や責任意識がちょっと薄かったと思います。自分たちは安全運航を守っていたらいいんだ、みたいな部分があって。とても失礼な言い方をすれば、当初は業績悪化を経営側だけの責任にしていました。稲盛さんの言う、利他の心がなく、利己の心にまみれていたんです。

【総務】たとえば飛行機の出発が遅れたとき、以前ならその責任を他部門に求めがちでした。ところがフィロソフィ手帳が完成してからは特に、まず自分たちの行動を振り返るようになりました。整備、空港、運航、客室がそうやってフィロソフィにある“最高のバトンタッチ”を意識したからこその連帯感。どこかよそよそしかった社内に目に見えないつながりが生まれたんです。

【広報】植木さんはどのような感想を持っていますか?

【社長】JALでのフィロソフィの浸透はまだまだこれからの段階です。真にフィロソフィを自分たちの血肉とするには、これから永続的な学びが必要になるでしょう。ただ振り返って思うのは、稲盛さんに何度も叱られながら、社員みんながその教えを驚異的な速度で吸収していっていることです。私自身も、最初のリーダー教育の翌日、ある会議の場で「石に噛りついてでもやり通そう」という表現を使いました。周囲から「植木さんは、そんな泥臭い言葉を使わない人でしたよね」と苦笑されたものです。気がつけば、稲盛さんと同じようなことを口にしている自分になっていたんですね。


(左上)「稲盛さんに怒られ“利他の心”に目覚めました」737運航乗員部長・機長上谷氏(右上)「フィロソフィ手帳は稲盛さんの“叱責の真髄”」客室本部客室マネジャー小林千秋氏(下)CAのフライト後、フィロソフィに沿った行動ができたかを全員でチェック。

【CA(2)】客室乗務員も日々、フライト前後にフィロソフィ手帳を心のよりどころにコミュニケーションしています。JALのCAの接客はマニュアル主義。かつてはそんなご意見を耳にしても、そんなはずはないと正面から受け止められないこともあった。でも今は自分たちを第三者的な目線で冷静に分析できます。あのときはちょっと上から目線だったな、って。破綻という辛い体験とフィロソフィのおかげで私自身、人間的に成長できたなと感じます。

【空港】空港スタッフもフィロソフィ手帳を皆肌身離さず持っています。何か迷ったときの判断のものさしであり、立ち返る原点になっているんです。

【人事】フィロソフィは人事採用の面でも基本になっています。グループ各社とも求める人材像は、40項目あるフィロソフィに沿ったもの。応募者に対して面接担当者はフィロソフィの横串を入れて本質を見極めるのです。