自分の意思が未来を開く

いくつになっても一念発起して別のことを始めることはできます。しかしながら、年齢を重ねるごとに社会のしがらみに捉われ、身動きがとれなくなるものです。今の立場を守るためにあきらめる選択をしなければならないことが増えるからです。ですから、機動力ある若いうちに、世の中への貢献や新しい価値を創造することに挑戦したほうがいいというのが私の考えです。そうすれば、思いもよらない新しい世界が開けると思いますし、それに順応することで人生に広がりを持たせていくことができると信じています。

特に情報過多になっている今の時代、好奇心を行動に移す前に、日々、流れ込んでくる多大な情報に押され、経験を伴わない知識に満足してしまっている人が増えているのかもしれません。今だからこそ、外からの情報や他人の価値観に縛られず、目の前の「当たり前」すらも疑って生きるのが大切だと感じます。なぜならば「当たり前」という概念は個々の人間が生きてきた社会と環境の中で形成される「常識」に過ぎず、特定されたそれ以外では通用しないことのほうが多いからです。

もうひとつ大切なのは、最初から完璧を目指さないことです。やったことのない物事に取り組むというのは、最初からうまくいくものではありません。まずは実行することに重きをおいて、ベストを尽くす。良い結果は求めるけれども、完璧は求めないことで一歩が踏み出しやすくなると思います。

英語で「Perfection is the enemy of good.」という表現があるのですが、完璧を目指すがゆえにいつまでも結果に満足できず、十分にやりつくしたというポジティブな感情を持てなくなるということです。これでは新しいことにチャレンジしようというモチベーションが生まれません。

社会にはゼロからイチを生み出すイノベーターと、イチからヒャクをつくるために改良を重ねて完璧なものを目指して大きく育てる人、この両方が必要です。私が今まで話してきたのは前者をどう増やすかということです。イノベーターを目指すのであれば、完璧を目指すことよりも躊躇せずに踏み出すほうが大切ですし、そのような人材を育む寛容さが社会には必要だと思います。

好きこそものの上手なれではありませんが、情熱を注げられることであれば努力し続けることができますし、意思を持って行動すれば、大なり小なり道は必ず開けます。実際に経験して学ぶことは頭の中で描いた世界をはるかに超えますから、自分の好奇心には貪欲になって、行動することをおすすめして連載を終えたいと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。

最後になりますが、先月、日本に法人を設立しました。眼科医としても将来的には自社開発する医療技術を日本の患者様にもお届けできることを目指し、事業基盤を構築することに邁進してまいります。

窪田 良(くぼた・りょう)●1966年生まれ。アキュセラ創業者であり、会長、社長兼CEO。医師・医学博士。慶應義塾大学医学部卒業後、同大学院に進学。緑内障の原因遺伝子「ミオシリン」を発見する。その後、臨床医として虎の門病院や慶應病院に勤務ののち、2000年より米国ワシントン大学眼科シニアフェローおよび助教授として勤務。02年にシアトルの自宅地下室にてアキュセラを創業。現在は、慶應義塾大学医学部客員教授や全米アジア研究所 (The National Bureau of Asian Research) の理事、G1ベンチャーのアドバイザリー・ボードなども兼務する。著書として『極めるひとほどあきっぽい』『「なりたい人」になるための41のやり方』がある。Twitterのアカウントは @ryokubota 。 >>アキュセラ・インク http://acucela.jp

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