なぜ、そのカフェは心のコリがほぐれるのか?

ビルの1階にあるカフェのスペースは5坪ほど。ちょっと広めのリビングルームという感じで、中央に6人が座れる大きめのテーブル、その両サイドに小さめのテーブルがふたつあります。

私が訪ねたのはオープン前の時間帯で、実は写真に写っているのは牧野さん(中央)とカフェのボランティアスタッフですが、こんなふうに来訪したケアラーはコーヒーなどを飲みながら、抱えている介護の悩みを吐露したり、情報交換をしたりするのだそうです。悩みや思いを共有すると、胸のつかえが少しとれる。辛いのは自分だけではないんだ。それが大きな心の支えとなるのです。

聞けば、スタッフはやってきたケアラーたちの会話に立ち入らないようにしているとのこと。同様の状況に置かれ、同様の悩みを持つケアラー同士が語り合って交流することが、疲れて孤立しがちな人の気持ちを少しでも前向きにさせると考えているからだといいます。

東京杉並区にあるケアラーズ・カフェ「アラジン」。ケアラーズ・カフェに関する詳細やお問い合わせは、日本ケアラー連盟(http://carersjapan.com/)まで。

私も父の介護をしていた時、対処法がよくわかからず「経験者のアドバイスがあったら助かるのに」と思ったことが何度もありました。ひとりで悩みを抱え、気持ちが落ち込むこともありました。

介護が続く以上、そうした状況を一気に打開することはできませんが、悩みを誰かに聞いてもらうだけでも、ずいぶん気が楽になるはずです。ケアラーズ・カフェが自宅近くにあったら間違いなく足を向けたと思います。

ただ、牧野さんはこう言います。

「私たちが始めたケアラーズ・カフェは何度もメディアで紹介されていますし、行っている開設講座には数多くの問い合わせがきますが、現在運営されているのは全国で20カ所ほど。身近な場所にはなっていません」

また、場所も、公民館の一室やレンタルスペースなどで、開設するのは週に1~2回の時間限定というところが大半。落ち込んで誰かに救いを求めている時、駆け込める場所とまでは言えないのです。前出の「アラジン」にしてもオープンするのは週に3日程度。スタッフはボランティアであり、毎日開くことができないそうです。

「ケアラーの支援が国の施策に盛り込まれ開設に補助が出るようになれば、ケアラーズ・カフェも増えていくでしょう。私たちもその働きかけをしているのですが、介護保険財政が危機にある今、介護者の支援まで目配りしてもらえないのが現状です」