人間の心理学的な特性を知って資料を作ることが大事だと日比野教授は言う。

「ドナルド・ノーマンというアメリカの認知心理学の有名な研究者が『エモーショナル・デザイン』という本で、人間がデザインを受け入れる段階は3つに分けられると書いています」

要約するとこうだ。最初の段階が〈ビセラルレベル〉。内臓感覚つまり直観。その次にくるのが〈ビヘイビアレベル〉。使いやすさのレベルだ。プロダクトデザインの場合、使いやすさが重要だとよくいわれる。しかし、人間はそれ以前に直観で受け入れるか受け入れないかを判断しているので、極端な話、見た目がよいほうを使いやすそうだと感じるところがあるのだ。

最後のレベルが〈リフレクティブレベル〉。記憶などがかかわってくる総合的に一番高次の判断だ。ただ、人間がデザインを受容するときは直観という無意識の情報処理が働くので、使いやすさ、省エネやコストなど、さまざまなメリットが理屈ではわかっても、見た目がよくないと買おうとは思わないのだ。

資料も見てくれが大きなウエートを占めていることがおわかりになっただろう。

見てくれをよくするために心掛けたいデザインのイロハをまとめてみた。基本はゴテゴテ盛らずにシンプルに。そうすることで強調したい部分が目立ってくる。

「基本的に人は怠惰なものです。見ているようで、心からは見ていないことが多い。実にいい加減だと思って間違いありません。まずはスライドの最初の段階で相手を自分のペースに巻き込む。質問をするなどして参加させたり、冒頭で自分がこれから話すことをざっくりと1枚にまとめてから始めると、聞き手の食いつきはよくなるはずです。また、些細なことですが、聞いているほうは、話がいつまで続くのかも気になる。なので、スライドだったら、あと残り何枚かがわかるようなデザイン的な仕掛けをして、聞く人を安心させるのも注意をそらさないテクニックのひとつです。自分の意見を聞いてもらうためには、かなりの工夫が必要なのです」